サルコペニア 老化と筋肉

サルコペニアという症状をご存じですか?
先日、体操教室で講演を頼まれたのですが、そこでサルコペニアの話をしました。
サルコペニアは、筋肉が減っている状態をいいます。
サルコペニアは症状です。筋肉量が減るのは運動不足からと思われていますが、もちろん運動不足が関係します。しかし、年齢とともに減っていくことがわかりました。サルコペニアのことを「老年性症候群」というのだそうです。
筋肉量は30歳ごろをピークに、歳を重ねるとともに徐々に減っていくのだそうです。加齢そのものが原因になっています。
筋肉量が減れば、当然筋力も衰えていきます。
筋肉量が減っているというサルコペニアの症状は、高齢者といわれる65歳から70歳までの人で13~24%に見られます。これが80歳以上になるとなんと半数の人がサルコペニアの症状があるそうです。
サルコペニアは、筋肉量の低下が原因です。サルコペニアを調べるには握力計を使います。男性の場合、30キロ未満、女性の場合20キロ未満の場合、サルコペニアを疑います。また、歩行速度が0.8m/s以下になると、サルコペニアとみなします。1秒間に80cm以下ですから、これはもう歩いていないというか、動きがすごく遅くなっているという証拠です。
統計数値からすると、サルコペニアになっている人は、70歳で4人にひとり、80歳になるふたりにひとりにみられるのです。かなりの数といえます。
筋肉量が減っていくと、どんなことが起こるのでしょう。
筋肉が減っていくと、からだを動かすことができなくなります。究極は寝たきり。寝たきりの原因としては、脳卒中を起こして体が不自由になったことで起こります。これが、原因の1位なのです。2位はサルコペニアという説もあるようです。


わたしは、骨折もサルコペニアが原因になっていると思います。転びそうになったときに、ぐっと踏ん張る力があれば、転ばなくてすみます。
93歳の義父と暮らしていましたが、坂道を下るときにからだを支えきれず、転んでしまいました。そんなに急な坂道ではありません。雪が降って凍っていれば滑る可能性はありますが、ふだんはそんなに怖いと思ったことはありません。
ところが、義父は坂道でからだを支えることができませんでした。明らかに筋力の衰えです。
高齢者が、床に敷いてあるじゅうたんに足をひっかけて転ぶといいますが、足が上がっていないからです。足をあげる筋力が衰えているのです。
からだを支える踏ん張る力が衰えていたからだと思います。
骨折は筋力を衰えと関係があると思います。


わたしたちのからだは動かしていないとどんどん衰えていきます。
入院して、「絶対安静・禁食」といわれた人は経験があると思いますが、1日でもからだをまったく動かさない、食べものもとらないという状態でいると、今度からだを動かそうと思っても、ふらふらしてしまいます。
筋力の衰えだけではありませんが、筋肉が衰えたことが大いに関係しているのは事実です。
最近は手術を受けた翌日からでも、動かすことができると医師が判断すれば、動くように勧められます。
天皇陛下も心臓の手術をした翌日からからだを動かしていました。病室にウォーキングマシンを入れたと報道されていましたから、絶対安静ということはずいぶん変わってきました。


サルコペニアの原因は、加齢、活動不足(運動どころか外出もしないという活動不足)、栄養不足、病気(手術もあります。骨折、外傷など。そのほか、がん、呼吸不全、心不全、腎不全などでからだを動かすことができなくなった状態)があげられます。
病気のことを別にして、栄養不足に関して説明していきましょう。
わたしたちのからだは、たんぱく質からできています。ほかに脂質、糖質もありますが、筋肉、腱という部分はたんぱく質です。
たんぱく質が不足してくると、筋肉量も減っていきます。
歯の本を書いているのですが、歯がダメになってくるとたんぱく質の摂取が減ってきて、炭水化物がふえてくるのです。よく噛めないからですが、高齢者で歯がよくないとたんぱく質が不足していきます。

たんぱく質を食べものからとりますが、魚よりお肉のほうが含まれている量も多い。たとえば、肉に含まれているたんぱく質は部位によって多少異なりますが、30~40%です。すき焼き用の牛肉300グラムでたんぱく質は90グラムとれます。
魚にもたんぱく質が含まれていますが、アジを1匹塩焼きにして食べたとします。170グラムのアジですが、たんぱく質は15グラムしかとれません。というのも、アジの食べられる部分は170グラムの中で50グラムしかありません。たんぱく質はその28%ですから、約15グラムになります。魚の重さには、頭も骨も含まれています。食べられる部分が少ないのです。
1日に必要なたんぱく質の量は厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、男性で60グラム、女性で50グラムです。すき焼き用の牛肉なら十分とれますが、アジだと3匹は食べなければなりません。
歳をとってくると、脂っこいものは苦手という人がふえてきます。肉より魚のほうを食べたいといいますが、たんぱく質ということでは肉を食べることも必要です。
それには歯をたんぱく質が食べられるようにすることが必要です。
もうひとつサルコペニアに必要なのがビタミンDです。ビタミンDが不足している人はサルコペニアになりやすいという報告があります。ビタミンDは日光浴です。冬なら30分、春、夏なら15分、日光浴をしましょう。ちょっと外を歩くだけでいいと思います。


運動は筋肉を鍛えることです。
残念ながら、ウォーキングだけでは筋肉を鍛えることができません。これも以前松本熟年体育大学の試みで紹介させていただきました。
そこで、筋力アップにとりあげたいのがインターバルウォーキング。
もともとは、インターバルトレーニングといわれるもので、全力で走ることと軽く流して走ることをくり返し行う方法です。陸上競技のトレーニング方法で、もっともきついといわれています。
ヘルシンキオリンピックの長距離種目で3個の金メダルをとったチェコのエミール・ザトペック選手が考案しました。このトレーニングの結果、金メダルを3個もとれたのではないといわれています。
インターバルウォーキングを紹介しましょう。
簡単にいえば、早歩きとゆっくり歩きを交互に行います。
まず、ウォーミングアップを十分にしてください。そして、
Aはあ、はあと息が上がるぐらい、速足で歩きます。これを3分間。
B次に呼吸を整えて、ゆっくり歩きを3分間。
Cまた、早歩きを3分間。早歩きとゆっくり歩きを交互にくり返します。
早歩きとゆっくり歩きを3分間ずつ交互に5セット。30分になります。
あとは、ゆっくり深呼吸などをしてクーリングダウン。
たったこれだけで、5か月で太ももの筋力が10〜15%、持久力も10%向上したのです。
体力が弱かった人では、1週間目あたりから筋力の増加が認められたそうです。

体操教室で行われている体操は筋力アップにつながるものが多いので、体操教室に参加されている人たちはほっとしたようです。
体操をラジオで紹介するのはちょっとむずかしいのですが、お相撲さんが踏む四股のようなものです。お相撲さんのように足を高く上げる必要はありません。四股をはじめる前の姿勢で少しがんばります。足を広げてそのままの姿勢を保ちます。そして、片方の足はあげますが、あげるというより片足で立つ感じです。決して無理をしてはいけません。
ちょっときつい体操ですが、筋肉に少し負担をかけることで鍛えられます。こうした体操をしていると、踏ん張る力もつきますから、簡単に転ばないようになります。
転倒は骨折につながり、寝たきりになりますから、これは実にいい体操です。