当たり前のこと

 人は死ぬ。これが当たり前のことだが、死ぬことを忘れているのも人である。
 毎日死ぬことを考える。『死ぬことと見つけたり』という隆慶一郎の書いた小説の主人公が、それだった。武士道とは死ぬことと見つけたりという『葉隠れ武士』の生き方を貫こうとする主人公がさまざまな困難と出会う。それを描いた小説である。
 いまの時代に、こんな人はいないと思うが、この世の中で唯一の事実は、死ぬということ。
 人は死ぬ。これがわたしたちの体の中にインプットされている。それが、歯周病ではないか、といわれた。
 歯周病は、30歳代からはじまる。歯と歯茎の間にある歯肉溝というミゾに細菌が侵入し、細菌がそこにいつてしまうと、徐々に歯肉溝が深くなり、きちんと手入れをしない限り、最終的に歯は抜け落ちていく。歯を失うことは、自然界に生きる動物にとっては、死につながる。
 わたしたちは、歯を守ることで自然界の掟を破って長生きしている。と、先日お目にかかった歯科医師はいいたかったのである。
 なぜ人だけが長生きするようになったのか。長生きしていいのか。
 そんなことも考えさせられた。