がんばれ!歯科衛生士さん

病院や診療所、クリニックなどに訪れる患者さんが、どんな病気できているかという統計があります。
この統計を見ると、いちばん多いのが高血圧で約781万人、次は歯の病気で約566万人、そのあとは糖尿病約247万人、がん約142万人、脳血管疾患約137万人、白内障約129万人と続きます(平成17年の統計より)。
高血圧、糖尿病は十分想像できますが、歯の病気が2位というのは驚きです。
というのも、みなさん結構しっかり歯を磨いているでしょう。
歯科疾患実態調査という統計を見ると、日本人の95%の人が毎日歯を磨いています。1日に1回、もしくは2回、3回、食べるたびと、実によく磨いていることがわかります。


みなさんしっかり磨いているのにかかわらず、虫歯や歯周病になってしまうのはなぜでしょう。磨き方が悪い、ということもありますが、歯磨きだけでは虫歯も歯周病も完全に防ぐことができないからです。
完全にと述べたのは、虫歯や歯周病を予防する方法があるからです。残念ながら、完全に予防するには、歯科医や歯科衛生士という専門家によるチェック(検査を含む)、クリーニングが欠かせません。


虫歯や歯周病は、虫歯菌、歯周病菌という細菌によって起こる感染症です。インフルエンザ、肺炎などと同じ感染症ですが、インフルエンザや肺炎のように熱が出たりして、急激に症状が進むことはありません。ゆっくり時間をかけて進行していきます。こうした感染症のことを慢性感染症といいます。C型肝炎エイズなども慢性感染症です。
性感染症の多くは、生活習慣とも関係しています。いままで虫歯や歯周病は、生活習慣が問題とされ、細菌による感染症であることがあまり周知されてきませんでした。
歯磨きをしていれば、虫歯や歯周病にならないと思ってきたのです。


細菌の感染を防ぐには、まず感染しないことです。感染しても、細菌の量をできるだけ増やさないようにすることが重要です。
感染を防ぐということでわかりやすいのは、赤ちゃんの歯を虫歯にさせない方法です。それは、お母さん、お父さんの口の中から虫歯菌を除菌しておくことです。赤ちゃんには歯が生えていませんから、お母さん、お父さんの口をきれいにしておけば、虫歯菌は移りません。そうすれば、何の心配もなく、赤ちゃんと接することもできます。


虫歯菌、歯周病菌は、歯の表面、歯の根元に巣くっています。歯ブラシ、歯間ブラシ、フロスといった歯磨き用品を使って、虫歯菌、歯周病菌を除去します。しかし、これも残念ながら、わたしたちが一生懸命やっても完璧に除菌ができません。
ここで登場するのが、歯科医、歯科衛生士といった専門家です。とくに重要なのは、歯科衛生士によるクリーニングです。
歯科衛生士というと、歯科医の助手だと思っている人もいると思いますが、歯科衛生士には虫歯や歯周病を予防するために、薬剤の塗布や歯のクリーニングを行うという仕事があります。これが重要なのです。


知り合いの歯科衛生士から、「歯科衛生士という仕事が看護師並みに認知度が上がっていくといいのに」といわれました。
本当にそう思います。
『歯は磨くだけでいいのか』(文春新書)を書いた理由のひとつです。