あなたにとっておふくろの味は

沖縄クライシスについてくわしく述べよう(琉球大学第2内科教授益崎裕章教授の「沖縄クライシスからわが国のメタボ事情を考える」から)。
子どものころから、ハンバーガーのようなアメリカの大量消費型の食事に慣れてきた沖縄の壮年、還暦世代を中心に問題が起きた。脂肪がたっぷり含まれた肉をたくさん食べさせられてきた結果であるが、肥満、糖尿病、高血圧の患者が急増し、人工透析の導入、心筋梗塞脳卒中などにかかる割合が日本屈指のレベルに達しているという。
2004年以降、沖縄県の成人男性のふたりにひとりはBMI25の肥満ラインを超えていて、メタボリックシンドロームに相当する人は4人にひとり。肥満度に関しては、2014年の国民健康・栄養調査によると、全国で1位。
定年の65歳前に亡くなる男性の数は全国1位、糖尿病が原因で亡くなる割合が男女ともこれまた1位。心筋梗塞で亡くなる女性は全国3位、脳出血では男性が3位と、怖い数字が並ぶ。


食事の変化が原因と思われるのは、かつての沖縄のお年寄りのからだの状態がわかっているからである。
1980年琉球大学医学部が新設され、当時80歳代、90歳代の県民を解剖した所見が残っているが、驚くことに心臓の血管や大動脈に動脈硬化の痕跡がほとんどなかった。
この世代の主食は煮いもといわれるいもで、低カロリー低脂肪でなおかつ繊維が豊富。沖縄料理というと、ラフティなど豚肉を使ったものがよく知られているが、これは王族や富裕層が正月やお祝いの席で食べていたもので、戦前の沖縄では白米が主食ではなかったという。
ところが、戦後になり、一気にアメリカ型の食事が入ってきた。脂肪をとる割合は全国平均を5%前後上回るようになっていった。
このような状態が続いた結果起きたのが沖縄クライシスである。
現在、沖縄には100歳を超えて元気な百寿者と呼ばれる高齢者がいるが、全員戦前の生まれで、食事は野菜が中心の昔からの食事をとっている人が多い。ハンバーガーは食べなかっただろう。


おふくろの味というが、幼少期に食べた食事のことをいう。
わたしでいうと、みそ汁が代表だろう。みそ汁の具をたくさん入れるうちが多いが、ダイコンなら大根だけ、ワカメはワカメだけというように、具は単品だった。いまでも、みそ汁の具は単品ものが好きだ。具だくさんのま逆であるが。
天ぷらも同じように、野菜は単品で、ニンジンならニンジンだけを揚げる。ニンジンとゴボウを合わせることが多いと聞くが、ニンジンだけのほうが甘くておいしい。このニンジンのてんぷらは大好物。
こうしたおふくろの味が、その後の食生活に影響を与えている。
沖縄クライシスの記事を書きながら、わたしにとっておふくろの味とは何だろうと思いだしてみた。
おふくろの味が、野菜中心ならば、問題は少ないが、肉料理が多かったり、おふくろの味といえないがインスタント食品であったり、ファストフードというなら、注意が必要といえるだろう。
好きなもの、日ごろよく食べるものを振り返ってみることをお勧めする。
近著『歯は磨くだけでいいのか』をよろしくお願いします。