1200字の闘い

新聞に連載をはじめました。
これがなかなかむずかしい。というのは、文字数です。
依頼された文字数は1200字。
200字詰めの原稿用紙のことを「ぺら」といいます。ぺらで6枚。
原稿用紙で書くわけではありませんが、いままであまり経験してこなかった分量です。
編集者時代、リードといって、記事の内容を少し説明しながら、あおりを入れつつ、読者を誘う文章があります。週刊誌の場合、必ず、記事の前か、タイトルの周囲にあります。
記事は記者が書きますが、リードは編集者が書きます。これがだいたい100字、もしくは120字。短い文章ですが、これがむずかしい。
駆け出しの編集者だったころ、リードを書いて編集長のところに持っていくと、「内容を説明しているだけじゃないか。これじゃ、読みたくなくなるよ。何か読者が興味を引くところはないのか」といわれ、そこを中心に持っていくと、わたしの書いた文章の脇に、編集長が赤字で書き直しが入り、掲載してもらいました。わたしの書いた文章をすべて書き直されたことも何度もあります。編集長の書いたものを読むと、これがうまい。あおりもあって、読みたくなります。
というわけで、短い文章はずいぶん鍛えられました。
といってもいまでもあまりうまくはありませんが。
文章量でいうと、1200字というのは、ほとんどはじめての経験で、悪戦苦闘をしています。
この中で完結しなければいけないし、おもしろくなければ読んでくれません。
そんなわけで、今回はその苦闘の一部を紹介しておきます。

八ヶ岳ジャーナル』の9月1日付より。
 先日、『相棒』の再放送を見ていたら、事件現場にあった靴の近くで10円玉が二つ落ちていて、いつものようにそれが気になった主人公の杉下右京が、そこから事件を解決していきます。最初に発見したとき、「十円玉に使われている銅には殺菌力がありますからね」とつぶやきます。「銅に殺菌力」、はじめて聞いたという人もいるでしょう。じつは昔から銅に殺菌力があることは知られていました。最新の研究によって、次々とその効果が確かめられています。たとえば、殺菌力に関しては、細菌だけでなく、ウイルスにも効果があることがわかりました。病院のドアノブを銅製に変えたところ、付着している細菌の数がほぼ1時間のうちに4分の1に減少しました。ステンレス製のものでは細菌の数は自然に脱落する程度で、ほとんど減りません。
病院などでは、出入り口をはじめ、病室の入り口などにアルコールを使った消毒剤が置いてあります。医療従事者は、出入りのときには、必ず手指を殺菌しています。しかし、患者さんやその家族がしっかり消毒しているとはいえません。当然ドアノブなどには細菌がつきます。院内感染が怖いのは、そのなかに抗生物質の効かない細菌やウイルスがあるからです。そこで、ドアノブやハンドル、ベッドの柵、トイレの手すりなどを銅製に変え、院内感染を防いでいる病院があります。定期的に検査をしたところ、細菌の繁殖が確実に抑えられていることがわかりました。
銅がどのようにして細菌を殺すかというと、銅の表面に湿度などに応じて強い酸化力を持つ物質が生じるのだそうです。この物質によって細菌のDNAなどが損傷を受け、死滅するのです。
ある程度の湿り気があるとよく働くようです。靴底に10円玉を入れておくと、湿り気がありますから、10円玉に含まれている銅から酸化力の強い物質が出てきて、細菌を殺してくれます。足のにおいを気にする人が多いですが、これは密閉された状態で足が汗をかいたために起こるにおいと、細菌が繁殖したために起こるにおいです。ブーツなどは、よく乾燥させ、足も指の間まですみずみきれいにすることが肝心ですが、10円玉を入れておくのもいいでしょう。
10円玉がもったいないという人は、ホームセンターなどで銅の板や銅線を買ってきて入れることをお勧めします。
ホームセンターで、台所にシンクの排出口に入れるバスケットが銅製のものを見つけました。銅製のバスケットにすると、細菌などが繁殖しないので、目詰まりがしませんし、何より嫌なヌルヌルがつきません。あのヌルヌルですが、じつは細菌が集まって膜をつくっているのです。バイオフィルムといいますが、銅は細菌を殺してしまうので、バイオフィルムをつくらせないのです。
銅のさびともいえる緑青ですが、1984年に厚生省(当時)が生体に及ぼす影響について調べた結果、ほとんど毒性のないことがわかっています。靴底に10円玉、バスケットは銅製、まだいろいろ使い道がありそうです。