うなずき、オーマイガッ、そして開けごま

1肩こりは病気なのか
肩こりで整形外科に行く人はいないでしょう。肩こりを病気と思っている人はいません。
わたしが取材をした先生で、兵庫県たつの市で信原病院という肩関節を中心に診ている信原克哉先生がいます。信原先生は、整形外科の中でも肩の関節を診てきた先生で、プロ野球選手、バレーボール選手、お相撲さんなど、スポーツ選手の方もたくさん診てきました。千代の富士など。
実は信原先生ご自身が肩こりに悩んで、こんなに悩んでいる人がいるのに西洋医学では、まともに取り上げないのか、腹立たしさを覚えたのが整形外科を志した理由だそうです。
健康雑誌の編集長をしたときも、肩こりをきちんと解説してくれる先生を見つけるのがたいへんでした。
信原先生は、肩関節の専門医だけに肩こりをいろいろと研究してこられました。
肩こりは単純な病気ではなく、姿勢の悪さ、疲労、睡眠不足、精神的なストレス、首の骨の異常など、いろいろな症状が重なって起こる症候群であるといいます。
だからやっかいなのです。

2肩こりは日本人だけ
肩こりという言葉をはじめて使ったのは、夏目漱石夏目漱石の『門』の中で、主人公の宗助が、妻の御米(およね)の肩を指圧するこんな場面がある。「指で圧して見ると、頸と肩の継目の少し背中へ寄つた局部が、石の様に凝つてゐた。御米は男の力一杯にそれを抑えて呉れと頼んだ。宗助の額からは汗が煮染み出した。それでも御米の満足する程は力が出なかつた」
井上ひさしさんの戯曲に『頭痛 肩こり 樋口一葉』というものがありますが、樋口一葉も、『肩が張る』という表現しかなかったそうです。
肩こりにぴったりする言葉は、英語やドイツ語、フランス語にもなく、日本独特のようです。
第3回の「中学生、高校生の生活と意識調査」によると、中学生で23%、高校生で33%、小学生の6年生27%、4年生で20%の子どもたちも肩がこるといっています。
都市生活者を調査したところ、肩こりがいつもある、ときどきある人を含めると70〜80%の人が肩こりを訴えています。もちろん農村でも、常にある、ときどきある人を含めると専業農家の人で56%、兼業農家の人で61%。
まさに肩こり民族。

3肩こりはどうすればいい
なんといっても体操です。肩関節の専門家、信原先生直伝の方法があります。
『うなずき体操』といっていますが、「なるほど」と大きくうなずくように、首を前後に振ります。首の後ろの筋肉が伸びたり縮んだりするのを意識してやってみましょう。「なるほど、なるほど、なるほど、…」と5回ぐらいくり返します。
次は、『オーマイガッ体操』。外国の人が『オーマイガッ』と、両手を広げて肩をすくめる動作をしますが、あれです。肩をすくめて肩先を耳に近づけたあと、すとーんと肩を落とします。肩を落とすときに、大きく息を吐きながらやってみてください。5回ほど。
『開けごま体操』。肩と同じ高さまで両肘を上げ、目の前で両肘、両腕を合わせます。「開けごま」と扉を開けるような感じで、肘を開きます。90度に曲げた肘はそのままで、二の腕と肩が水平になるように。扉を閉じるとき肘はぴったり合わせます。ゆっくりこれも5回ぐらい。
こんな体操を1時間1回ぐらいすると、肩こりがなくなります。
1時間に1回するのがポイントです。
ずっと同じ姿勢でいないことが大切。
同じ姿勢を長い時間続けていることが肩こりの原因になりますから、1時間に1回はこんな体操をしましょう。
その他、ぶら下がり運動。家の鴨居に手をかけて、完全にぶら下がる必要はありません。膝が曲がる程度でいいです。
肩を温めるのもいいでしょう。タオルを熱湯に浸して、それをビニール袋に入れ、乾いたタオルで包みます。肩に乗せるとホアッと暖かくなってきます。火傷に注意して。

4肩こりと間違えやすい病気
・肺の病気…肺に病気があると呼吸が大きくできません。そこで、肩甲骨の動きが悪くなり、肩がこってきます。肺の入り口にがんができると、肩から腕にかけてがんこな痛みが起こることがあります。
・心臓…心臓の病気では、左の胸から左の肩にかけて痛むことがあります。これが肩こりを起こす場合があります。狭心症心筋梗塞の発作が起きると、左胸から肩、肩甲骨にかけて痛みが広がります。
・胃十二指腸潰瘍…肩がこることがあります。肝臓病、胆嚢の病気などがありますから、たかが肩こりをほうっておいていけません。なかなか治らない肩こりは要注意。
首の骨の異常。ヘルニアなどがあると、首から肩にかけてこりが現れます。しびれがあるようならすぐに病院へ。
腰痛があっても肩がこります。背骨の真後ろに最長筋という長い筋肉が走っていますが、腰痛があるとこの筋肉が異常を起こし、肩がこるのです。
その他、更年期障害などでも肩がこります。

5専門医ならでは肩こり治療
肩こりは、筋肉のこわばりが原因です。筋肉は固まりのように思っているかもしれませんが、実は非常に細い筋繊維の集合体です。一本一本の筋繊維がこわばってくると、お互いに圧迫し、筋繊維の中の血管も圧迫され、血液の循環が悪くなってきます。神経繊維も圧迫され、痛みが出てくるのです。こわばり→痛み→運動不足→血行不良→痛みというように悪循環が起こっているのです。
もともと肩には、両腕の重さが掛かっています。体重の約8%。60キロの人なら、4・8キロの重りをぶら下げているようなもの。それに頭や首の重みも加わります。
信原先生は、肩こりの巣のようなところを見つけ、痛みをとるために注射をします。ごく少量のステロイドで炎症を抑え、局所麻酔薬を使って、一気に痛みやこりをとってしまいます。
痛みをとったら、運動療法や温熱療法で、血行をよくしていきます。

6もう肩こりで悩まない
肩こりの予防は、姿勢を正しくすること。真横から見てもらってください。耳の穴から垂らしたセンが足のくるぶしまで一直線になっていますか。背中が曲がっていたり、おなかが突き出ているようでしたら、肩こりになって現れます。
次に血行をよくするためにも運動不足を解消しましょう。ウォーキングなどがいいですね。
1時間に一回ほど、先ほどの『うなずき体操』、『オーマイガッ体操』、『開けごま体操』をしてください。

750肩について
信原先生が、50肩だといってきた人を診察すると、本当の50肩は25%しかいませんでした。50肩だと思っている人は多いかもしれませんが、意外と少ないのです。
50肩の特徴は、夜間に痛む、肩と腕と付け根のあたりが痛む、次に衣服の脱ぎ着や腕を背中に回す、腕を上げるといった動作ができなくなります。
急性期で痛みがひどい場合は、肩を動かさないようにして安静にします。腫れていれば冷やします。痛みがひいてきてラクになってきたら、肩を十分に温めて、血行をよくして肩を動かします。体操がお勧め。ペットボトル500mlぐらいのものを持って。
肩を冷やさない。夜寝るときに、肩口から冷えますので、肩をできるだけおおって寝ることです。
病院では、ごく初期に鎮痛消炎のために注射をします。痛みをとることを優先的に行います。
肩を温め、運動、体操がいい。少しずつ動かすことが大切。

8月24日放送のFM八ヶ岳の放送レジメより