ひとくち30回で老化が防げる

編集者として仕事をしていたとき、よくいわれたのは、「食事は早くしろ」ということです。
仕事を一から教わった上司は、月刊誌や週刊誌を何誌も創刊してきた人で、いつも締め切りに追われてきたので、食事時間も切り詰めていたのだと思います。
その教えのひとつが仕事中に食事時間をたっぷりとるようではだめだ、ということでした。仕事をはなれれば、美味しいものが好きで、お店も紹介してもらいましたが。


わたしは、これで早く食べることが習性になってしまいました。できるだけゆっくり食べるようにしているのですが、なかなかできません。
ゆっくり食べるためにすることは、何といってもよく噛むことです。


よくひとくち30回といいますが、これをいいはじめたのは1800年代の初頭、イギリスで4期にわたり、首相をつとめたグラッドストン(1809〜1898)。
彼は、84歳で首相を辞任しますが、85歳の誕生日になったとき、新聞記者が、「何をしてそんなにお元気なのですか?」と尋ねると、「天からわたしたちに32本の歯が与えられた。これらの歯をすべて使うつもりで32回噛むようにしている」と答えました。
32回噛むことが健康の秘訣といったのです。ひとくち30回ではなく、32回だったのです。


この話を聞いて、のちによく噛むことを健康運動として広めたのがアメリカの大富豪ホーレス・フレッチャー(1849〜1919)。
フレッチャーは、イギリスでこの新聞記事を読みます。当時40代。
彼はそのとき、体重は100kg近く、腹囲は152cm、身長が171cmでした。明らかな肥満体ですね。
事実、体調も悪く、生命保険の契約も断れてしまいました。そこで、いい医者を探そうと渡英していたのです。


この記事をヒントに、ひとくち30回噛むことを実践し、5ヶ月で体重は71kg、腹囲は90cmまで減少。ひとくち30回だけでなく、
『本当に空腹感がわいたときだけ食べること』
『新鮮なものをシンプルに調理して食べること』
『ゆっくりよく味わいながらよく噛んで食べる』
を実践したといいます。
自分のからだの状態に耳を傾け、素材を気にし、そしてよく噛んで食べたのです。
こうして健康な体を取り戻しました。
その後、60代のとき、フレッチャーが自分の両肩に若者を立たせている写真があります。以来ずっと健康体だったようです。


わたしの友人にこの話をしました。テレビのカメラマンで仕事をはなれた後、ちょっと太ってきたので、さっそくやってみました。
すると、66kgがあった体重は4ヶ月で4kgやせ、ウエストも6cm細くなり、現在の体重も61kgでリバウンドはありません。30回噛むので、食事に時間がかかると奥様がおっしゃっていましたが、とくに食べものを減らしたり、運動をふやしたりしたわけでないので、噛む回数を30回にするだけでやせられたのです。


ある製薬会社で、メタボリックシンドロームを改善するために、ひとくち30回噛むように指導したところ、96%の人が体重を減らすことができたという報告もあります。


肥満の研究の第一人者大分医科大学名誉教授の坂田利家医師は、「30回ぐらいでなく、30回という回数を守ること」といいます。30回ぐらいと思っていると、自分で加減してしまい、そのうちやめてしまうからだそうです。

よく噛むと、唾液もたくさん出てきます。唾液にも有益な成分が含まれています。
たとえば、炭水化物の消化吸収に役立つアミラーゼという酵素
そのほか、リゾチーム、ラクトフェリン免疫グロブリンヒスタミンなどです。
殺菌、抗菌作用のある物質が含まれているのです。
口の中で雑菌が繁殖するのを防いでくれます。
雑菌が繁殖すると、それが口臭の原因になります。唾液の量が多いと口臭も防げるのです。
最近の研究で、唾液に含まれているペルオキシダーゼという酵素には、老化を促進させる原因となる活性酸素を除去する働きがあることがわかりました。

唾液は噛めば噛むほど分泌されます。
やせるだけでなく、老化も予防するために、よく噛みましょう。