わずか2・3%

7460名。
これは透析を受けている人の中で、腹膜透析を選んでいる人の数である。
日本透析医学会が2015年に調査した結果を発表している。
血液透析は、病院にほぼ1日おきに通い、血液をきれいする機械を使って、不要なものや有害なものを血液から取り除く方法で、血液透析をしてもらっている患者は258374名。
透析を受けている人で腹膜透析を選んだ人はわずか2.3%。
26万人の中の7460人。
これは本当に、非常に少ないといってもいい。


腹膜透析は、基本は患者自身が行う。自分のおなかの中に入れた透析液に、腹膜を通して不要、有害なものを排出する。有害なものを含んだ透析液は廃液し、新たに透析液をおなかに入れる。これを1日に3〜5回しなければならない。
交換するときは、衛生状態に十分に気を配る必要がある。
おなかからカテーテルの一端が出ていて、そこに透析液のバッグをつなげて、透析液を入れたり、汚れた透析液を排出したりする。このときに、細菌などが入っていかないようにする。もちろん、ふだんから外に出ているカテーテルには注意を払わなければならない。
透析液を腹部に送り込むためにカテーテルは、おなかの中を回っているので、からだの外に出ている部分も清潔を保つ必要があるからだ。
外に出ているカテーテルはおなかの中と同じといってもいいだろう。
出ているカテーテルの出口部分が炎症を起こしていないか、痛みなどはないか、浸出液のようなものは出ていないかという観察が必要だし、消毒などは欠かせない。
これを怠ると腹膜炎や出口部に感染を起こしてしまう可能性があるからだ。
これらすべてを自分でしなければならない。
自己管理がたいへん重要なのである。


しかし、透析液の注入、廃液にはトータル30分程度で終わるし、装置さえあれば、自宅でなくても旅先でもできる。装置もそれほど大げさなものではない。
わざわざ病院に通わなくても透析ができるし、病院で受ける血液透析では、約4時間もベッドに拘束されるが、そういうこともない。
病院に通わず、自宅でできる、それほど時間もかからない、これは透析患者にはいい。
毎日しなければいけないのだが、ほぼ1日おきに病院に行くより、自由に使える時間はある。


ところが、冒頭にあげたように、腹膜透析をしている患者数は、きわめて少ない。
やはり自己管理がむずかしいのだろうか。
欧米諸国での腹膜透析の普及率は7〜22%。
腎不全の末期になったとき、治療の選択は大別して透析と移植がある。
腎臓移植が一般化している欧米では、最初の選択として腹膜透析を行いながら、移植を待つというような状況のようだ。
移植を受けずに腹膜透析を続ける人ももちろんいる。


日本ではドナー不足などにより、移植が一般的でないために、その前段階の選択としても、腹膜透析を選ぶ人が少ない。
腹膜透析が普及しない理由のひとつは、医療者の不足がある。
血液透析が多いこともあって、患者数がふえないので、腹膜透析を学ぶ機会が少ない。その結果、腹膜透析にくわしい医師や看護師も少ない。


しかし、病院に通いながら透析をしている場合も、病院が自宅から遠いところにあり、通うにも3時間もかかる人もいる。そういう地域に住んでいる透析患者は腹膜透析を選んだほうがいいのではないだろうか。
また、高齢者で病院に通えなくなったり、車で行くことがむずかしくなったりする可能性が考えられるなら、腹膜透析を選択したほうがいいだろう。
これから、糖尿病患者がふえていることもあり、透析に至る人も随分と出てくると予想できる。
透析といわれたら、腹膜透析を考えてほしい。
腹膜透析を選択する人がふえれば、当然医療関係者もふえて、透析の状況も大きく変わっていくに違いない。