かつてトンカツ屋で

「もしもし噛めよ」の続きだが、以前ゆっくりよく噛んで食べようと思い、実行したことがあった。
 健康雑誌の編集長をしていたときに、取材で肥満の専門家にあった。その医師は、肥満患者を診ていた。糖尿病や高血圧、その他の病気があり、やせなければ命に関わるのだが、なかなかやせられない人を入院させ、徹底的に食事指導、運動処方をしてやせさせることに成功していた。
 食事療法に、ゆっくりよく噛んで食べるというものがあり、きちんをできた場合は、○をつけ、できなかったときは×をつける。それを毎食ごとにノートに記入していくのだが、○が並んでいくのを見るのは楽しいが、×が続くと、けっこうプレッシャーになるといっていた。
 肥満者の場合、こうした図形で状態がわかるように指導する方法がいいらしい。
 これ以外にも、体重のグラフをつけるのだが、そんな方法でやせられるのかと聞いたところ、とくにゆっくり噛むというのは有効だといわれた。
 それを聞いて、やってみようと決心した。昼食に編集部近くにトンカツ屋に行った。
 口の中に肉を入れて30回、ご飯と混ぜて30回、キャベツを30回、とよく噛んで食べていると、あとからきた人も、もちろん前からいる人も、どんどんいなくなる。20分ぐらいかかっただろうか。まわりの人はすべて入れ替わった。
 その店は、カウンターだけの立ち飲みならに立ち食い(座って食べますが)形式のところだったので、なにしろ回転が速い。店の人から、「まだ、こいつ食ってるよ」光線を浴びながら食べ続けたが、こちらもちょっとプレッシャーを感じました。それでやめたわけではないが、何か自然ともとの早食いに戻ってしまった。習慣にならなかったのである。
 今度、こそ、と思っているが、うまくいくだろうか。