医療面接

 かつて、大学病院に通っていたとき、いつもの診察室に医学生がひとりいて、主治医の先生といっしょに、わたしを診察した。診察といっても、そのときは問診などをしなかったが、主治医から検査結果を説明してください、といわれ、学生は検査表を読み始めた。なかでも、基準値より高いところが念入りに説明してくれた。この間、一度もわたしの顔は見なかった。
 主治医が、「患者さんの顔を見ながら、説明してください。あなたの説明でわかったどうか、わからないと思ったら、わかるまで説明しなければいけません。ただ説明すればいいのではないですよ」といっていた。
 もう一度といわれて、わたしの顔を見ながら、説明をはじめたが、わたしの顔色を読めただろうか。これはかなりむずかしい。それこそさまざまな患者を診るのだから、しかも、個々に対応していかなければならない。医療面接といわれる実習の一環らしいが、患者の顔色を読むのはむずかしいだろう。熟練もいるだろう。
 模擬患者といって、医療者に症状を話したり、質問に答えたりする患者役を務める人がいる。模擬患者をしたことのある人が、実習やテストのときは、患者と医療者の関係をきちんとつくろうとしたのに、終了のベルが鳴った瞬間に無愛想に部屋を出て行ったり、廊下ですれ違っても知らん顔をする人が少なくないそうだ。
 明らかに面識があるはずなのに、と残念そうだった。
 コミュニケーションは、お互いにとるもの。わたしたち患者はあきらめていけない。