名医に聞く

 糖尿病の大家といわれるような先生に取材でお会いしたことがある。ちょっと昔だが。
 糖尿病患者が日ごろ注意しなければならないことなどをお聞きしたあとで、糖尿病患者は自分自身でしなければならないことがたくさんありますね、と感想を述べ、自分でやらなければならないことばかりなら、名医なんていりませんね、といったところ、大家はしばらくじっと考えて、こう答えた。
「確かに患者さんがやらなければいけないことが多いのですが、患者さんにやる気を起こさせる、やってもらう。そういう指導ができるのが名医で、糖尿病こそ名医が必要なんです」
 といわれた。なるほど、そういうことか。
 また、わたしの親しい糖尿病の専門医は、初診の患者さんとは徹底的に話をする。どうやったら、患者さんが生活を変えてくれるのか、何ができるのか、さまざまな角度から話を聞く。その医師のところには、全国から患者さんがやってくるが、「こんなに先生に話を聞いてもらったのははじめて」と涙を流すのを見た。
 あれをやれ、これをしろ、といわれるばかりで、なかなかできない胸の内をはじめて聞いてもらったという。わかっていても、できないのが患者である。
 その医師は、「できないことをいっても、できないから無駄でしょう」という。やれないのはなぜか、できることは何か、を聞き出せば、やるようになる。
「患者さんにいろいろ教えてもらいました。それがいまの診療にたいへん役に立っています。患者さんから学べないといけませんね」
 といっていた。
 そこでは、いままで糖尿病で失明した患者さんは一人もいないそうだ。