産婦人科のいない地域は町が荒廃する

 いまわたしたちが住んでいるのは山梨県北杜市北杜市のお隣、県は違いますが、長野県富士見町に富士見高原病院があるのはご存じですね。
 じつは、富士見高原病院でこの4月から小児科の先生が常勤することになったのです。残念ながら、いまの北杜市には、小児科の専門医院がありません。産婦人科医院もないのですが。総合病院である甲陽病院に小児科はありますが、小児科医は常勤ではありません。
 富士見高原病院にくることになった小児科の先生は、東京の警察病院小児科部長、さらにもうひとり長野県の総合病院に勤務していた女医さんが常勤になるそうです。
 お子さんをお持ちの人は、近くに小児科のお医者さんがいるのはたいへんうれしいでしょう。
 もっとうれしい話があるのです。小児科医の常勤にともなって富士見高原病院に産科ができるようになるのです。富士見高原病院には、2007年4月から産婦人科のお医者さんがいるのですが、産科(分娩)を開設するに当たって、小児科医の常勤していなければむずかしいといっていました。
 全国的に見ても産科を開設する病院は本当に珍しい。
 山梨県でも大きな病院でも産科医がいなくなって、産科を休止しているところがふえています。
 少子化が問題になっていますが、産科がなければ子どもを安心して産むこともできません。
 
 ところで、産婦人科医がどのくらいいるかご存じですか。
 2006年の統計ですが、全国の産婦人科医の数は9592人。1万人を割ってしまったのです。医師の総数は、27万7927人で2004年の前回調査と比較すると、2.8%ふえています。10年前にくらべると15%も医師の数がふえている。ところが、産婦人科医は10年前にくらべると12%も減っている。外科医も同じように13%減って、2万1574人でした。ふえているのは、整形外科医、眼科医、皮膚科医などで1割以上ふえています。ちなみに精神科医、麻酔科医は2割以上ふえている。
 麻酔科医がいないから産婦人科を休止する病院が山梨県ではありましたが、麻酔科医もふえているのです。医師の偏在です。
 人口10万人あたりの医師の数はいちばん多いのが京都府で272人、いちばん少ないのが埼玉県で135人。倍以上違います。わが山梨県は192人。
 15歳から49歳までの女性10万人あたり産婦人科医の数でいちばん多い県は、鳥取県で60人、いちばん少ないのは滋賀県で26人でした。山梨県は44人です。全国平均38・7人を上まわっているのですが。
 小児科医、産婦人科の数でいうと山梨県も長野県もそんなに変わらないのに。富士見高原病院で産科が開設できたのはなぜでしょうか。

病院祭りに行ってみた
 昨年2007年の10月20〜21日の二日間にわたって開かれた病院祭りに行ってきました。
 高校の学園祭のような感じです。病院の外来フロワーを使って、メタボリックシンドロームのチェックをしたり、内視鏡を使ったクイズがあったり、院内感染対策チームが手にどのくらいばい菌がついているかを教えてくれたり、盛りだくさん。病院の外では太鼓の演奏や踊りを披露する町の人もいて、それはにぎやかでした。
 日ごろどんな治療をしているのかというそれぞれの科の先生の話もありました。痛みをなくすペインクリニック、形成外科ではどんなことをしているのか、放射線科の仕事など、日ごろ従事している先生が説明するので、これもなかなか面白かったですね。
 井上院長の講演もありました。富士見町に住んでいる人の質問に、「全国的に医師不足が問題になっているようですが、富士見高原病院ではそんなことを感じないのですが、何か特別にしているのですか」というものがありました。
 これに院長が答えて、「お医者さん、とくに女医さん、看護師さんを大事にしてきた。女医さんでお子さんを出産するために休まなければいけない。そんなときでも時間があいているときがあれば、フルタイムでなくても短時間もいいから診察をしてもらう、お子さんが生まれたら赤ちゃんを預かるための託児所をつくる。子育てが少し楽になって時間ができたら、今度はお医者さんのほうでこの病院にお世話になったら、そのお返しで働いてくれる」
「いろいろなお医者さんがいます。その専門性を生かしたい。住民の役に立つと判断すれば、多少高価な医療器具でも購入します。放射線科の先生は、診断だけでなく、カテーテルを使った治療も得意だと聞きましたので、3次元CTも入れました。肝臓がんの治療などにも使えます」
「研修医制度が変わることを知ったときに、この病院でも研修医を受け入れることができるように勉強会を開いて、みんなで勉強し、積極的に研修医を受け入れるようにしました。そして研修医がきてくれましたし、病院の常勤医師になってくれるかもしれない」
「病院の魅力をつくろうと努力してきました。わたしは大阪出身で病院経営に興味がありますから、経営を中心に考えています。地域の人たちに役に立つ病院づくりを積極的にやっていきたい」
 富士見高原病院は、ベッド数が149。診療項目が19。富士見町の人口は15.526人、世帯数は5.673です。

産婦人科が開設される
 富士見高原病院も04年に産婦人科の常勤の医師が開業することでやめてしまい、産科を休止しました。それ以降なかなか産婦人科医が確保できないで、分娩を休止、お産ができない状態が続きました。
 昨年2007年、産婦人科が着任。婦人科の外来をはじめました。この先生が、分娩再開の条件として、常勤の小児科医の確保、助産師の確保、病院同士の連携をあげ、それに病院側が2年間をめどに体制を整えようとしてきたわけです。
 地元でお産ができることはとても大切です。若い人の仕事もつくることも大切ですが、若い人が生き生きと生活してもらうためにも、医療体制の充実が必要です。
 井上院長は、「産婦人科のない地域は、町も荒廃する」といっています。
 富士見高原病院は、1990年山梨医科大学(現山梨大学医学部)から産婦人科医の継続的派遣を受けて、2004年の8月まで年間に、長野、山梨両県の約140人が出産していました。
 山梨県小淵沢町が、富士見高原病院の施設整備にあたり、補助金を出すこともしていたようです。北杜市も医療器具の購入や病床整備に対し、資金面の支援を検討しているようです。富士見高原病院も北杜市の乳幼児健診に小児科医の派遣を検討しています。
 こうした市町村を越えた動きが出てくるのは、本当にいいことです。医師がなかなか確保できない、それがうまく行っている病院を応援する。こうしたことが必要になってくるでしょう。とくに、地方ではそうですね。
 いま住んでいるところで、医療が十分でないとしたら、がんばっているところを応援する。

 病気の治療も重要ですが、これからの医療は予防を中心にする必要があります。医療費の高騰を抑えるには予防しかないのです。
 予防に欠かせないのは、医療者の側から見ていくと、患者、住民の生活をみる必要があります。あれをしなさい、これをしなさいというだけでは、予防はできない。住民の生活を知らなければできない。
 訪問診療が非常に重要になっていきます。

 こんな内容を話しています。3月26日。FM八ヶ岳で。今回はその原稿です。