医師は感激し、やめませんといったという

 朝日新聞の記事に母親たちがはじめた患者会の紹介記事があった。
 兵庫県柏原(かいばら)病院の小児科を守る会の話である。柏原病院で、医師不足のために受診制限がはじまったのをきっかけにこの患者会はできた。
 病院の側が、患者が簡単に受診しないように、受診に際し、かかりつけ医の紹介状を求めるようにしたのである。
 当時、柏原病院でぜん息のお子さんを診てもらっていたお母さんには、最初紹介状の意味がわからなかったという。柏原病院の先生がかかりつけ医なのに、なぜほかの先生からの紹介状が必要なのかと。
 お母さんは仲間を集め、勉強をはじめた。そして、病院に置ける医師の不足の実態を次第に理解するようになった。最近は新聞などでも報道もされるようになったが、病院によっては、当直をした医師が翌日もそのまま働き続け、それも夕方から夜まで働いていることもあるという。極度の疲労のあまり、退職を考える医師もいる。柏原病院でも同じことが起きていた。
 母親たちは、医師が疲れ果ててしまう原因は自分たち患者側にもあると思い、医師増員を兵庫県に求める署名活動をはじめたときに、その用紙の裏に、「軽症でもすぐ病院に行く『コンビニ受診』を控えましょう」と書いて呼びかけたという。
 その署名は約1ヵ月で5万5千人分も集まった。
 母親たちは自分たちもコンビニ受診をしていたのではと思い、どこまで様子をみていていいのか、どの段階から病院に行けばいいのか、を病院の医師たちに取材し、病院の監修を受けて、熱、せき、嘔吐、下痢などの症状別にどの段階で病院に行けばいいのかというチェック事項をつくった。たとえば、せきが出る場合、せきだけでほかに症状がなければ様子をみる、せきに加えて熱があり、鼻水が出る、のどにはれや痛みがある場合、かかりつけ医を受診することが第一で、夜間や休日なら翌日に受診をする、せきに加え、吐いたり、息をするひゅーひゅーする場合には、電話相談をしてできるだけ早く受診をする、ひどくせき込み、呼吸困難を起こしている場合は、大至急救急車を呼ぶ。もしこのときに、何かを飲み込んでいる場合は、逆さにして背中を叩くなど、さまざまな想定を示している。これですべてがフォローできないかもしれないが、子どもを診断する材料は提供されている。
 こうしたチャートを保健師の協力を得て、乳児健診などで配った。
 その効果は4ヵ月ほどで現れ、昨年の8〜12月の小児科の時間外受診は187人。これは前年の同期と比較すると、4割以下に減っていた。ところが、重症で入院した子どもは、ほぼ同じ数で40人。簡単に受診する人が減ったといえるだろう。
 このような柏原病院の小児科を守る会の活動を知った神戸大学は、10月から医師を柏原病院へ派遣しはじめた。さらに、医師の当直の支援もはじまったという。
 柏原病院でも、一時退職を決意していた医師は、この会の活動に感激して、退職することをやめたそうだ。
 また、母親たちの取り組みを知り、ぜひ柏原病院で働きたいと希望する医師も現れている。
 患者たちが病院を変えた好例である。 
 総務省が救急搬送の実態調査を発表しているが、わたしたちも、簡単に救急車を呼ばないですむように、勉強をしたい。結局、それはわたしたちのためにもなるのだ。