世界ではじめてといっていい

 世界ではじめて、まぶたに関して書かれた本といっていいと思います。
 その内容を少し紹介しましょう。まぶたの不思議に驚かれるはずです。
 これから紹介するものは、FM八ヶ岳で放送した原稿を元にしていますので、多少文章として問題があると思いますが、ご容赦ください。
 
1まぶたをはじめ、体の不思議あれこれ

 まぶたに関しても、たんなる目のふただと思っていませんでしたか。じつはわたしも、まぶたについてじっくり考えたことはありませんでした。まぶたに実にいろいろな働きがあることははじめて知りました。
 アフリカで生まれた私たちの先祖は、中東地域に進出し、その後ヨーロッパ、インド地方に足を伸ばしていきます。その中の一部が、ヒマラヤ山脈やアラカン山脈を越え、東南アジア、東アジアに進出しました。
ヒマラヤ山脈の北部、モンゴルや中国西部に進出した祖先たちは、マンモスなどの獲物を追って行ったのですが、そこは極寒の地でした。凍傷などから身を守る必要があります。
 狩りをするうえでももっとも重要な眼球を凍傷から守るために、まぶたにも脂肪がついて厚くなりました。そして、さらに一重まぶたになって目を大きく開くことを防ぎました。私たちの顔は、祖先たちが寒冷地で生活するために獲得した、防衛策の名残なのです。
 わたしたち日本人に多くみられる細い目のまぶたには、下位横走靭帯という横に走るスジがあるのです。この下位横走靭帯が、まぶたが大きく開くのをじゃまするため細目になってしまうので、「細目靭帯」と呼んでいます。この細目靭帯が発達していると、目が細くなり、一重まぶたになる傾向があります。モンゴロイドといわれている人たちの顔です。
 一方ヨーロッパに進出した先祖たちは、極寒の地に住む人たちを別として、モンゴロイドと異なり、一重まぶたや厚いまぶたで目を守る必要がありませんでした。コーカサスという異なる人種を形成しました。
ところで、樋口一葉さんをご存じですね。5千円札の肖像画になっていますが、ちょっと見てくれますか。樋口一葉さんは、典型的な日本人のまぶただそうです。

2日本人になぜ肩こりが多いのか
 樋口一葉さんは、ひどい肩こり持ちで、ひどく肩がこって、「これできびしく打っても感じないほどです」と文鎮を人に見せたという逸話が残っています。文鎮でたたいても感じないくらいの肩こり、これも相当ひどい肩こりです。
 ここで少し肩こりの原因について考えてみましょう。
 さて、肩こりの原因というと、パソコンに向かって懸命に仕事を続けた、車の運転など長い間同じ姿勢をとっていた、運動不足だったなどといったことが上げられますが、確かに誰もずっと同じ姿勢をとっている肩がこってきます。しかし、ちょっと肩を動かすことで肩こりを起こさない人もいるし、いままでまったく肩なんてこったことがないという人もいます。
 肩こりは、肩の筋肉がこわばり、それが神経を刺激して痛みが生まれ、痛むので運動不足になり、肩を動かさなくなるために血行不良が起こり、さらに痛みが起こるという悪循環をくり返すことで発生するといいます。これは以前肩こりの話をしたときにも、肩こりの原因として紹介しました。
肩こりの原因は、首や腕を支えている肩の筋肉の疲労といわれますが、これが原因なら、誰もが肩こりになるはずです。
 同じような姿勢をとっていても肩がこらない人がいたり、肩こりで悩んだことがないという人がいるのはなぜでしょうか。肩こり人間、非肩こり人間の違いはどこからくるのでしょうか。
 肩こりをしない人はよく体を動かしているから、姿勢がいいから、それだけでしょうか。
 そもそも、肩こりの原因となる、肩のこわばりはどうして起こるのでしょう。
 樋口一葉さんの肩こりや頭痛は、彼女の顔、とくにまぶたに原因があるというのです。
 彼女の顔は、多くの日本人に共通の一重まぶたをしています。この一重まぶたこそ肩こりの原因なのです。
 肩こりは、日本人なら誰にでもなじみのある病気ですが、欧米では肩こりはあまりなじみがないようです。ちなみに辞書で肩こりを引いてみると、a stiff neckという言葉が出てきます。英語を直訳すると、「くびがこわばる」と訳せます。肩ではなく、首なのです。
 欧米人でも肩こりに悩んでいる人はいるはずです。これまた疑問ですが、欧米ではなぜ肩こりになじみがないのでしょうか。
 答えは、肩こりが日本人のように一般的な、誰もがなる病気ではないからです。
 これも顔が物語っています。欧米の白人は、目が大きく、ぱっと見開いている人が多く、まぶたもくっきりとした二重まぶたです。日本人のようにまぶたが厚い人をあまり見かけません。
 肩こりとまぶた、意外な関係があったのです。

3まぶたはどうやって開けているのか
 さて、目が覚めると誰もがまぶたをあけます。
 このとき、まぶたをどうやってあけているのでしょうか。
 まぶたをあけるといいましたが、正確にいうと上まぶたを上げています。
 私たちの体を動かしているのはすべて筋肉です。筋肉が縮んだり伸びたりして、体は動いています。まぶたも例外ではありません。
 上まぶたの内側にある上眼瞼挙筋という筋肉が収縮したり弛緩したりして、まぶたをあけたりとじたりしています。
 この上眼瞼挙筋の先は腱膜という薄い膜状になっていて、瞼板というまぶたのふちを作っている薄いかまぼこ板のような板状の軟骨につながっています。上眼瞼挙筋が収縮すると、その先端の腱膜に引っ張られるようにして瞼板が持ち上がり、まぶたがあくのです。
 つまり、まぶたがあいているときは、この筋肉はずっと収縮しているのです。まばたきをしますから、ずっとあきぱっなしというわけではありませんが。
 足の筋肉で説明すると、アキレス腱に相当するのが腱膜です。つま先立ちで歩くとき、足にあるひらめ筋と腓腹筋という2つの筋肉を収縮させて、アキレス腱でかかとの骨を持ち上げています。アキレス腱が、筋肉とかかとの骨をつなぐ役目を果たしているのです。このアキレス腱にあたるのが、まぶたの場合は幅広い膜状の腱膜というものです。
 この腱膜と瞼板をつないでいるところは非常にデリケートにできていて、目をこすったりすることではずれたり切れたりしてしまいます。この腱膜と瞼板のつないでいるところがはずれてしまっている人が意外と多いのです。このことが大きな問題を起こしているのです。そのわけは、じっくり説明していきましょう。
 アキレス腱が切れると歩けなくなってしまいますが、まぶたのアキレス腱ともいえる腱膜と瞼板がはずれてもまぶたは開きます。それは、腱膜の下にもうひとつ上眼瞼挙筋と瞼板を結んでいるミュラー筋という筋肉があって、まぶたをあけるのをサポートしているからです。目のアキレス腱がはずれても、その下にあるミュラー筋と上眼瞼挙筋が収縮してまぶたがあけられるのです。
 まぶたをこすると気持ちがいい場所があるでしょう。あのあたりにミュラー筋はあります。
 つまり、まぶたにはふたつの引き上げ役があるのです。
 まぶたのアキレス腱ともいうべき腱膜がはずれてしまうと、上眼瞼挙筋が目の奥のほうに引き込まれて、まぶたをあけるのが困難になります。まぶたが垂れ下がってきます。医学的には「眼瞼下垂」と呼ばれる状態です。
 しかし、眼瞼下垂状態になっても、ミュラー筋があります。ミュラー筋ががんばって、少々無理をしてまぶたをあけているのです。これが体全体に大きなストレスがかけています。これが肩こりの原因になっているのです。

4まぶたに注目した医師がいた
 眼瞼下垂症という病気があります。まぶたが下がってきて、目が開けにくくなる病気です。この眼瞼下垂の手術をたくさん行ってきた信州大学形成外科の松尾清教授は、手術を受けた患者さんから、長年悩まされてきた肩こりが治った、頭痛がすっかりなくなった、気分の晴れないことが多かったのがなくなったという報告を受けて、まぶたの手術をしたのだから、よく見えるようになったというのならよくわかるが、肩こり、頭痛、うつ症状がよくなるのは、なぜだろうと、まぶたの研究をはじめました。
 すると、先ほどのまぶたを上げている筋肉に秘密があることがわかりました。ミュラー筋という筋肉に脳を刺激するセンサーがあったのです。
 まぶたを上げている筋肉には、わたしたちの意志で動く随意筋、勝手に動いてくれる不随意筋があることが述べました。
 私たちが、まぶたを上げるために上眼瞼挙筋を意識的に収縮させて(随意筋)、つまりまぶたを大きく見開くと、ミュラー筋のセンサーが引っ張られ、「固有知覚」が出ます。この固有知覚が上眼腱挙筋の無意識に動く不随意筋を収縮させます。これは反射的に起こります。そして、不随意筋が収縮し続けます。これで、まぶたを自然に、無意識にあけ続けることができるのです。
 上を向いて、まぶたを大きくあけると、上眼瞼挙筋の随意筋を強く収縮します。すると、ミュラー筋のセンサーも強く引っ張られます。固有知覚が強く出て、上眼瞼挙筋の不随意筋が強く反射的に収縮し、まぶたを大きくあき続けることができます。
 下を向いて上眼瞼挙筋の随意筋を弱く収縮させると、ミュラー筋のセンサーが弱く引っ張られます。固有知覚も弱く出て、不随意筋も弱く反射的に収縮し、まぶたが小さくあき続きます。
どちらにしても、まぶたをあけ続けていられるのは、ミュラー筋のセンサーが引っ張られ、固有知覚が出ているからです。
 ここで、おおきな問題となるのは、ミュラー筋のセンサーが引っ張られると、まぶたをあける上眼瞼挙筋(の不随意筋)だけでなく、顔の筋肉の多くが勝手に収縮してしまうことです。
 ですから、細目靭帯が発達している樋口一葉さんなどの一重まぶたの人は、まぶたをあけ続けるためには、ミュラー筋のセンサーを強く引っ張り続ける必要があります。さらに、まぶたをあけるために、眉毛も動員していますから、額の筋肉や後頭部の筋肉である後頭前頭筋が収縮しています。あとでくわしく説明しますが、眉毛を上げているのは額の筋肉ですが、額の筋肉は後頭部の筋肉とつながっているのです。ですから、後頭前頭筋といいます。頭の表面をおおっている筋肉の疲労が原因の緊張型頭痛を起こすのです。
 そして、目やまぶたと頭の筋肉にはいっしょに動こうとする働きがあるので、僧帽筋なども筋肉も縮み、肩こりになるのです。思いあたる人も多いのではありませんか。一重まぶたの人、眉毛の上がっている人、両方ともあるという人はたいてい肩こり持ちです。
 また、一重まぶたの人は、長時間パソコンを凝視し続けていると、上眼瞼挙筋を収縮させてミュラー筋のセンサーを引っ張り続け、固有知覚を出し続けているので、眼精疲労(瞼精疲労)になり、目の上奥の上眼瞼挙筋が痛みます。目がしょぼしょぼするだけでなく、顔の筋肉も収縮し続けるので顔面がこわばってきます。
次回は、肩こりだけでなく、まぶたの関係する病気の話をしましょう。