高齢者はなぜころぶのか

 義父と生活をともにするようになって、2ヵ月になろうとしている。今年の冬にあまりからだを動かしていなかったせいか、ひごろからの運動不足のためか、義父の動きがかなり緩慢になっている。
 93歳という年齢もあり、からだを動かすことを習慣にしていないと衰えは早い。その代わりに、その回復にはおそろしく時間がかかる。毎朝、わたしたち夫婦は新聞を取りがてら、約40分のウォーキングをしてきた。そこで、わたしたちと同じ行程を歩いてもらうのはむずかしいが、距離を短くして、歩く時間は同じぐらいになるように歩いてもらっている。
 平坦な道を歩くのはそれほど苦にならない。できるだけかかとを上げて、足を上げて歩くようにしてもらったところ、引きずるような歩きはなくなった。
 問題は坂道である。登りはほとんど支障はない。下りになると、前かがみになっているからだを支えきれず、倒れ込んでしまう。高齢者の転倒は、前に倒れることがいちばん多く、意外と後ろに倒れることは少ない。坂道になると、いっそうからだを支えていることができずに倒れてしまう。
 腕でからだを支えることができれば、おそらく腕を骨折することになるだろうが、まるで枯れ木が倒れるように前に倒れてしまう。腕を折ることはないのだが。
 坂道での転倒を防ぐために、坂道の途中で休むこと、本当にゆっくりゆっくり下りてもらうようにしたのだが、それでも倒れてしまう。
 なぜ転倒するのは、それは利き足と非利き足のバランスが悪いからだという。利き足と非利き足で筋電図をとってみると、微妙に動きに違いがある。とくに歩くような連続運動をすると、その差が現れてくる。それぞれの足に多少のおもりをつけて、筋力をつける運動をするといいらしい。
そこで、義父に尋ねてみた。利き足、義父の場合は右。右足と左足では、歩いているとき、もしくは立ったときに、階段を昇るときに、違いがあるかと。すると、右足のほうがしっかり立てるが、左足になると多少心許ないという。そこで、左足になるときに注意をすること、左足を意識して歩くことなどをお願いした。さて、効果は出るだろうか。
 転倒は、骨折の原因になるし、最悪の場合は寝たきりになってしまう。これにともなう医療費は年間で2000億円にも相当する。転倒を防ぐ、これは高齢者のQOLを守るうえでも非常に重要になってくる。
 さて、義父の運動を手助けしてくるか。