バリヤフリーにしないわけ

 以前、山内美郷さんがある雑誌で家を建て替えるときに、バリアフリーにしないといっていた。車椅子で生活されている人にとってバリアフリーは必須条件だが、家の中では伝い歩きができるなら、多少の段差があってもいいと思う。
 義父と暮らしてみると、確かにほんのわずかな段差でよろけてしまう。しかし、柱や壁に手をつけていれば、よろけない。何かに手を添えているだけで、安心だという。家の玄関に入るには2段の段を超える必要があるが、それも家の外壁に手を置けば、確実に足を上げ、昇ることができる。
 玄関のたたきから室内に上がるときも、靴棚の取っ手でからだを支え、さらに壁に手を置いて、上がったり下りたりしている。手すりがあればいいのだが、なくても壁に手を置けば、上がり下りができる。
 家の中にいるときも、壁はもちろん、タンスやドアの取っ手など、からだを支えるものはたくさんある。こうしたものをうまく使えば、現在のところ、バリアフリーにしなくてすみそうだ。
 長寿医療センターの大川弥生先生も、家の中では伝い歩きをすることを目標にするといっておられたが、義父と暮らしてこの理由が少しわかった気がする。
 義父を見ていると、たとえば、外出先のレストランなどでも、階段を上がらなくてはならないときに、柱があればそれにつかまってからだを支えようとしている。
 家がすべてバリアフリーで、壁などを使ってからだを支える工夫をしていないと、こうはいかないだろう。かえって、外に出かけたときに困るのではないだろうか。
 外出先がすべてバリアフリーではないからだ。できる限りバリアフリーになってくれればいいだが。しかし、バリアフリーでない場所でも、自ら工夫して、階段などを上り下りする、これも必要なことなのだろう。
 何ごとも工夫すること、これを義父から見習う日々である。