二階から目薬

 もうすぐ94歳になる義父が白内障の手術を受けた。その手術の模様を紹介しよう。
 手術日前より3日間ほど目薬を差すぐらいで特別なことはしない。手術当日も普通に朝食をとる。
 病院に行って、手術着に着替え、何回か目薬を差し、血圧などを測る。心電図の電極をつけ、手術室へ。
 目薬は麻酔薬でそれが効いてくる。ちなみに麻酔薬は目薬のみ。
 手術室には部屋全体をモニターするカメラと顕微鏡に設置されたカメラがある。
 わたしたち家族は希望すれば、手術の状況を別室で見ることができる。
 手術の映像は、顕微鏡下の映像を見る。医師が見ているものを同じものを見ることになる。
 まず、目玉の上のほうで、黒目と白目の境のところに、わずかに2.5mmほど切開する。ここから水晶体を砕く超音波の器具を入れ、さらに砕いた水晶体を掃除機の要領で吸い出す。もう一箇所、これまた小さな切り込みをつくり、そこから細い鉗子のようなものを入れ、砕いた水晶体をかき出しやすくする。
 超音波によって、黒ずんでいた水晶体がみるみる砕かれ、細かくなって吸い出されていく。
 高齢者になるほど水晶体が硬くなり、砕くのに時間がかかるといわれているが、義父の場合それほど硬いという印象はなかった。
 砕かれた水晶体が吸い取られ、きれいな空洞になっていく。水晶体が完全になくなると、そこに眼内レンズが装着された。これで手術は完了した。
 手術室から、右目にガーゼを貼り付けた義父が出てきた。もちろん、歩いて。
 着替えがすみ、手術室の前で待っていると、手術室から医師が顔を出し、「手術は無事に完了しました、何も心配することはありません」といって、次の手術をすべく、部屋の中へ。わたしたちも家に帰る。
 手術時間は、15分もかかっていないし、病院にいた時間も1時間もないくらいだった。手術をした日は、ガーゼをつけたままの状態で、食事も普通にとるが、お風呂には入ってはいけない。炎症などを防ぐ薬を飲む。
 さて翌日、診察に行くと。
 まず、ガーゼをはずし、視力検査を受ける。乱視があるが、その矯正をすれば、視力は1.0まで回復することがわかった。わたしよりいいくらいだ。
 義父はメガネをかけなくても、よく見えるという。いままで薄暗かった景色が明るくなり、文字もはっきり見えるようになったようだ。眼内レンズが以前のものとくらべ、格段に進歩し、文字などもくっきり見えるようになっている。
 白内障の手術あとは開放創といわれる切ったままの状態である。自然と傷口はふさがるのを待つ。傷口に外からふれたり、押したりするのがよくない。また、傷口の感染の防ぐために、頭を洗ったり、顔を洗ったりしてはいけない。
 こうした注意事項を守らないと、眼内炎といって炎症を起こし、視力が一気に衰えてしまう。せっかく手術をしたのに、眼内炎を起こしたら、元も子もない。炎症を防ぐ目的もあり、2種類の目薬を1日に4回ささなければならない。
 以前義父が自分で目薬を差すのを見ていたら、目薬の先を直接目に入れるようにしてさしていた。これでは目の雑菌が目薬の中に環流し、感染の原因になる。
 手術後の目薬は、わたしがさすことにした。傷口のある目の上のほうにふれることなく、下まぶたを開いてそこに目薬をさす。眼科では、看護師が上手に目薬をさしていたが、そんなにうまくはできない。
 しかし、何回かしているうちにずいぶんうまくなった。そのうちに二階からでもさせるようになるかもしれない。