太っていないのに糖尿病になる日本人

1わずか数年で川崎市と同じ数の人が糖尿病になった
 糖尿病の患者さんが増え続けています。2006年の統計ですが、糖尿病が強く疑われる人が820万人、糖尿病の可能性を否定できない人が1050万人。2002年の統計では、強く疑われる人が740万人、糖尿病の可能性がある人が880万人、1997年の統計では、強く疑われる人は690万人、可能性のある人は680万人。毎年、毎年糖尿病の可能性が強いといわれる人が60万人以上の人が出てきているというのは、大きな問題です。これだけ急激にふえてきたのはなぜなのでしょう。
 ところで、「強く疑われる人」というのは、現在糖尿病で治療を受けている人のことですから、まさに糖尿病の患者さんといっていいと思います。
 患者数でいうと、わずか9年で130万人もふえました。この数は川崎市の人口に匹敵します。トリニダード・トバコというカリブ海に浮かぶ小国の人口も130万人。ひとつの病気の人が一国、一都市の人口を同じぐらいふえたというのは、驚きです。4年の間に、川崎市の人口と同じ数の人が糖尿病になったのです。
 糖尿病のふえ方が尋常ではありません。9年の間に130万人ふえたのです。
 こちらに越してきた知り合いになった人の中で親しくさせてもらっている人で、糖尿病の人は3人、その可能性が高いといわれた人がふたり。正直に申告してくれた人ですが。パーセンテージでいうと、かなり高いですね。
先ほどの2006年の統計で、糖尿病が強く疑われる人、つまり糖尿病で治療を受けている人と、糖尿病の可能性を否定できない人を加えると、1870万ですから、日本人で赤ちゃんから後期高齢者の方々までで、5人、6人にひとりは糖尿病にかかっているか、その可能性があるといってもいいでしょう。
 この非常にふえてきている糖尿病は、「2型糖尿病」といわれるもので、食べ過ぎや運動不足が関係します。
「1型糖尿病」は、ウイルスなどの何らかの感染が引き金になって、自己免疫疾患です。自らを守る免疫機構が、自分自身のからだを痛めつけてしまう病気ですが、突然インスリンを分泌している器官を攻撃して、インスリンを出さないようにしてしまう病気です。若い人に多いのですが、「2型糖尿病」とはまったく違うものです。
個人的にいわせてもらえば、1型、2型と分けるより、別の病名をつけたほうがいいと思っています。
 じつはこの2型糖尿病は、日本人がとてもかかりやすい病気です。
 民族的な体質というのが関係しているのかもしれません。遺伝的な要素があるとも考えられます。
先頃、この9月に日本人の糖尿病の遺伝子のひとつが解明されました。遺伝子は、DNAというのが実態なのですが、DNAは塩基といわれる化学物質、アデニン、チミン、グアニン、シトシンが複雑に並んでいます。DNAの情報によって、わたしたちのからだは形作られているのですが、わたしたちは個人差がありますね。
 この個人差が生まれるのは、アデニン、チミン、グアニンなどの並び方に少し違いがあるからです。遺伝子のレベルでこの違いをスニップ(SNP)といいます。
スニップがあるので、わたしたちは同じ人間でも違うのです。肌の色、人種からはじまって、お酒に強いとかある薬がよく効くとか、反対に効かないといった、いろいろな違いが出てくるのです。
 個人差の元となっている、スニップを調べていったところ、2型糖尿病を起こすスニップがわかったのです。
 じつは、欧米人で2型糖尿病になる人のスニップはわかっていたのですが、東アジア人は異なると思われていました。
 日本人の糖尿病になった人とそうでない人の遺伝子のスニップ、個人差を調べ、2型糖尿病になる遺伝子の違いがわかりました。
 この研究によると、2型糖尿病になる遺伝子の元となるスニップを持っている人は、日本人の2割に相当するそうです。日本人の2割、2540万人。これだけの人が糖尿病になる可能性がある。
 現在、1870万人ですから、徐々に近づいていることになります。
 わたしの叔母は糖尿病で、その子どもたち、いとこは糖尿病になった人が多い。わたしの母は糖尿病を発症しませんでしたが、わたしにも糖尿病の可能性はあるわけです。こうして調べていくと、誰もが糖尿病の可能性があるといえるでしょう。
 ちなみに兄弟に糖尿病の人がいる人は、いない人にくらべて6倍も糖尿病になり安いというデータがあるようです。
 糖尿病になりやすいスニップがわかりましたので、将来的には予防などに応用できるでしょう。あなたは糖尿病になりやすいから、早くから予防しなさいといえるわけです。

2大して太っていないのに糖尿病になる日本人
 2型糖尿病には大きく分けて2種類あります。糖尿病はインスリンの働きと関係がある病気です。インスリンの分泌が少なくなったり、インスリンが分泌されていてもそれがよく働かなくなったりしたために、糖が血液中にあふれてしまう病気です。
 糖が血液中にあふれて、それが毒のように作用していろいろな障害を起こすわけですが、一方で体の中の細胞に糖が届かないために、オーバーにいえば栄養失調状態になります。細胞自体に元気がなくなる、抵抗力がなくなる、つまり病気になりやすい。
 糖尿病は自覚症状がほとんどありませんし、まわりにも糖尿病の人がいるし、別に特別に何もしていないから、自分も安心だと、理由もなく、気にしない人が多いのです。本当はたいへん怖い病気です。
ところで、インスリンが分泌されても、その働きが悪ければ、糖は吸収されません。このタイプは、いわゆるメタボリックシンドロームと関係があります。太っているというのが、大きな基準ですね。このタイプの糖尿病は欧米人におおく、太っていて糖尿病になる人が多い。太っているためにインスリンが効きにくくなり、糖尿病になるのです。
 ところが、日本人で糖尿病といわれた人は必ずしも太っていない。それほど太っていないのに、なぜ糖尿病になってしまうのか。
 それは、インスリンの効きが悪くなるのではなく、インスリンそのものの分泌が悪くなるために、糖尿病になるのではないかということがわかってきたのです。
 さきほどの糖尿病の遺伝子の話ですが、このたび発見された遺伝子は、インスリンの分泌に係わっている遺伝子でした。
 もっとも、この遺伝子だけが、わたしたちがかかる糖尿病の発症に関係しているとは思えません。もっとほかにさまざまな要素があると思われますが。
 それにしても、遺伝子のレベルというと、太ってもいないのに糖尿病になりやすいわたしたち、日本人。よほど注意しないと、危ない、危ない。(FM八ヶ岳の放送原稿の一部です)