エンドポイントは人それぞれ

 わたしは右の腎臓が動いていない。
 30代ぐらいから徐々に悪くなっていたらしいが、50歳になってはじめて受けた人間ドッグでそれがわかった。
 そのとき、超音波診断を受けたのが、検査技師が右を向いてください、仰向けになってください、左に向いてください、といろいろ指示する。画面を見ながら検査を進めているのだが、時間が恐ろしくかかった。
 当時、健康診断では、まさにそのときの状態しかわからないし、各臓器の専門家でなければ、それぞれの臓器の状態を正確に知ることはできないと思っていた。病状が重要で、それが診察の基準になる。健康診断でどのくらいのことがわかるのだろうかと、少し疑問を持っていた。
 何より、自覚症状が大切で、ふだんと少しでも違うところがあれば、それを頼りに専門医にかかろうと思っていた。
 少々太り気味だし、美味しいものが大好きだったし、運動不足は間違いないし、脂肪肝高脂血症、胆石、十二指腸潰瘍の自覚症状というか、覚えがあり、これらをきっと指摘されると思っていた。
 ところが、医師に「あなたの右の腎臓が萎縮して、おそらく機能していないでしょう。左の腎臓も衰えてきています」といわれたのである。
 まさに青天の霹靂。びっくりした。
 20代の後半から、編集の仕事につき、残業時間だけで1ヵ月に200時間を超すようなハードな仕事だったが、何より好きな仕事で、本当に打ち込んだ。30代の半ばに編集プロダクションをおこし、雑誌の創刊などをしてきた。
 自分のからだを顧みることなど、まったくしなかった。そういえば、生命保険に入ろうと検査を受けたときに、たんぱくが出ていますといわれたが、検査をした医師も疲労でしょうといい、自分でもそう思っていた。
 そのころから、腎臓は悲鳴を上げていたのだろう。
 腎臓に障害があることがわかり、専門医に診てもらっているが、血圧を上げないようにする、塩分を減らすといった治療法で、腎臓の機能はもとに戻らないし、徐々に悪くなっていく。
 最終的には人工透析を受けるしかないが、わたしの腎臓のエンドポイントは少しずつ近づいている。
 腎臓移植という方法があるが、わたしは腎臓移植を受けようとは思っていない。
 年齢もある。腎臓移植を受けたいと思っている、もっと若い人に譲りたい。