黒田恭一氏 追悼

 黒田さんが亡くなった。『サライ』のCD紹介ページにご執筆がないな、と心配したが、亡くなったと聞いて、ショックを受けた。
 健康雑誌を創刊するときに、音楽のコラムをつくりたくて、そのコラムは黒田さんしかいないと思い、頼み込んだ。
 健康雑誌で音楽の紹介をしようという企画は面白いね、やらせてもらうといわれ、わたしが編集長を降りるときまで、連載は続いた。
 黒田さんの原稿でよく覚えているのは、聞くという言葉だ。
 普通音楽を聴くときは、「聴く」という文字を使う。
「聞く」は、人の話や音などを聞くときに使うもので、音楽は「聴く」という文字を使うと思っていた。
 黒田さんは、「聴く」でもなく「聞く」でもなく、すべてひらがなの「きく」だった。音楽を紹介するコラムだから、この「きく」が必ず出てくる。それで「きく」がたいへん印象に残っている。
「きく」という言葉の使い方について、黒田さんにまさに聞けばよかったが、編集者として想像するに、黒田さんにとって、音楽は「聴く」だけでなく、もちろん「聞く」でもなく、心から楽しみ、場合によっては生きる道を教えてくれる、「きく」というすべてのことを現していたのだろう。
 だから、「聞く」でもなく、「聴く」でもなく、「きく」だったに違いない。
 黒田さんが案内をしてくれる音楽をたくさん購入した。それまで、ジャズばかり聴いていたが、黒田さんに紹介され、いままであまり聴いたことのなかったオペラを聴いたり、ポルトガルなどなじみのない国の音楽にも出会った。
 まったく知らなかった音楽の世界を開いてくれた。
 音楽に関して、わたしの師匠である。

 心より、ご冥福をお祈りします。