ときの移ろい 命の輝き

 長野の梅野記念美術館で、「稜線の風のごとく 犬塚勉展」を見た。稜線というように、南アルプス谷川岳奥多摩の渓谷など、山の景色を面そう筆といわれる細い筆を使って細密に描いている。
 わたしは、山の景色より、こんもりと茂った草むらから日が差し込み、ハルジオンが静かに揺れている、裏庭を切りとった絵が好きだ。「梅雨の晴れ間」というタイトルがついている。
 草木のすべてが、ひとつひとつ丁寧に描かれている。日差しが差し込んでいるところは、明るく、日陰はうっすらと暗い。日がもっと差し込んでくると、この景色も移ろっていく。それを感じさせる。
 さらに、細かく書かれた草のひとつひとつに命の輝きを感じる。
 犬塚さんは、無名の画家だが、自然と一体になるだけでなく、絵の中に自分をしっかり描きこんでいる。
 わたしと同い年だが、谷川岳で亡くなっている。心に残る絵だった。
 
 友人の本杉琉さんが東京麻布十番のラ・リューシュという画廊で、個展をしている。
 こちらは、現代絵画(主に段ボールを使っている)だが、作品のすべてが暖かい。少し寂しい感じがあるのに、見ている人を温かくする。ここにもその人の「人となり」が出ている。
 美は、そこにある。それを感じるだけ、と梅野美術館の梅野さんはいったが、わたしは、さらに「人」を感じる。
 絵を描いた人はもちろん、その絵に感動を覚えた人の息吹などを。
 ぜひご覧ください。
 ラ・リューシュは、東京都港区麻布十番2−13−2電話03−3452−080011月21日まで。