何もできなかった

 年下の友人が亡くなった。
 奥さんが電話で知らせてくれた。 
 鬱と躁をくり返す双極性障害だった。
 彼が電話をかけてくるのは、躁状態のときもあったが、ほとんどはやや落ち着いているときだった。
 最期の電話になってしまったが、そのとき、自分の病気や仕事のことなどをわかってくれる、いい先生にめぐり会えたと喜んでいた。
 薬も効果があるが、やはり丁寧な対応が必要だ。
 医師が患者をよく知り、いつでも不安を感じたときはたとえ夜中であっても、対応してくれ、細かく指導してくれる。これが何よりの治療である。
 うつ病は、いい医師にめぐり会えるかどうかが、かなり重要である。
 今度のお医者さんは、いろいろわかってくれていいですよ、と電話口で語っていたのに。
 躁状態が続き、鬱状態に入ったころ、自ら命を絶ってしまった。
 電話で話を聞くだけだったが、多少医学の知識のあり、彼の仕事のこともわかっているわたしと話すと、気が晴れますといってくれた。
 何かできるとうぬぼれていた。
 まったく何もできなかった。
 自分の無力をしみじみ感じた。
 彼は、少しえらそうに傲慢になっていたわたしを、初心に戻してくれた。
 感謝している。
 直接会って、もっといろいろなことを話したかった。
 先のことを含め、少し希望が見えてきたといっていたのに。