最近読んだ本から

 FM放送用に作成したレジメです。放送されてからでないと、ブログにアップできないので、時間がかかってしまいました。新年2回目の放送です。このまま放送をしていません。多少脱線したり、表現を変えてみたりしているのですが。それは聞いてもらわないとわかりませんが。
1研修医制度が変わった
 前回の放送でも取り上げましたが、この正月休みに医療関係の本を何冊は読みました。
 そこから、いまわたしたちがかかっている医療事情について、お話ししたいと思います。
まず、最初ですが、研修医制度が変わったことで医師不足になったといわれていますが、そのあたりから。
 これは、『スーパー名医が医療をこわす』というすごいタイトルの本からの紹介です。著者は現役の勤務医です。 いまいちばん問題となっている勤務医からの提言ですね。
 医師不足は研修医制度から起こったといわれています。
 いまの研修医制度に変わる前は、医師の免許を取ると、大学の医局に残って研鑽を積み、その間に教授の命令で、系列の病院に送られる。医局にそのまま残る医師もいました。そこでは、病院ではすぐに実戦に参加していき、腕を磨いていった。
 いまの研修では、病院によって異なりますが、前期2年間と後期3年間から5年間に別れるのですが、前期2年間の間にさまざまな科をまわって腕を磨くことになりますが、その間も指導医がついていてきちんと指導してくれるし、しかも、どの病院で研修をするかは、研修医が判断できます。
 昔なら、医局に残っていわばお礼奉公のような形で、さまざまな医療的な雑用を含め、研修医が行ったのですが、こうした医師がいなくなったために、大学の医局に医師が少なくなり、系列の病院に派遣していた医師を大学が引き上げ、そのために病院に医師が足りなっています。
 しかし、よく考えてみると、研修医が集まる病院なら、医師も不足していない。研修医が、都市の病院や人気のある病院、魅力のある病院に集中するようになっているからです。
 たとえば、都道府県別に研修医がどこに集まっているかを調べると、やはり東京が圧倒的で1位。2位は、神奈川県、3位は愛知県、4位は大阪府。大都市が中心です。しかし、このベストテンを見ていくと、お隣の長野県は9位、沖縄県も7位なのです。都市だけではなく、魅力的な病院のある県には、研修医も集まっています。
 ところが、わが山梨県は、下から2番目。それだけ魅力のある病院が少ないんですね。これは、大いに反省しなければいけません。
 どうすれば魅力的な病院をつくれるのか。これを長野県などから学ぶ必要があります。

2『白い巨塔』はなぜ人気があるのか
 この本は、テレビドラマに登場する医師を題材にして、いまの医療事情を探っています。最近のドラマはマンガなどが原作になっていることが多いのですが、その原作者、さらにドラマの制作者が、医師をどのようにとらえているか。視聴者に何を訴えているのかを探っています。
 結果として、視聴者が医療従事者をどのようにとらえているか、考えているかにつながっていきます。これがこの本のひとつのポイントです。テレビドラマを題材にいまの医療(医者)事情を探っているわけです。
白い巨塔』。これは山崎豊子さんが、1963年に週刊誌に連載したものです。映画やテレビドラマにもなりました。わたしたちの年齢でいうと、主演の田宮次郎さんが印象的でした。
 2003年にテレビで唐沢利明さんが主役になって、リバイバルされました。
白い巨塔』がどうしてこんなに人気があるのかというと、医療事故がテーマになっているのではないというのが著者の主張です。
 医師が、患者に対して、真摯な態度で接してこなかったのが問題を大きくし、そこに人間ドラマがあるというのです。
 平たくいってしまうと、医師が患者を見下している。横柄な態度で、患者のいうことに耳を貸さないし、患者に不満があっても聞こうともしない。
 これが問題だといっています。確かに、主人公には、こうした態度が見られます。一方もうひとりの医師は熱心に患者に話を聞こうとする。
 テレビドラマですから、登場人物はかなり誇張されていますが、医師が患者を見下すことがまったくないといえません。これは問題です。

3がんと立ち向かう患者のために
『がんを生きる』という本があります。これは都立駒込病院の院長が書いた本です。
 主治医から余命を告げられたらどうすればいいか。
 この本を推薦しているのは、エッセイストの岸本葉子さん。岸本さんはご自身もがんになられています。岸本さんは、推薦文の中で、「患者のこころは以前より苦しくなっているのではないか。そういう問いをたてられ、答えを探すことをご自身に課して、ずっと悩んで考え続けてこられたのですね。短い命といわれても、こころ安らかになれるのか、その問いを医療者は医療者で、これほど真摯に考えてくださっていることに救いを感じます」
 と書かれています。
 以前がんを告知しなかったときは、医師と患者の間に信頼関係があったのではないかと著者はいいます。ある意味で、医師におまかせするという形で信頼関係があったのでしょう。そして、患者の信頼に医師も応えようとしていた。
 ところが、告知をするようになり、さらに病状をくわしく説明するようになって、さらに余命まで告げるようにもなってきた。
 医師は、このとき患者にどのように対処していけばいいのか。どのように納得してもらえるのか。まさに悩みに悩みます。
 この先生は、2000人も患者の死を看取り、本当にさまざまな死を向かい合います。そして、先達の意見を聞き、たくさんの本を読み、患者のこころに沿うためには何ができるかを考え続ける。本当にいい先生だと思いました。
 その一部を紹介します。つらいときに、
…人に相談するということは、あなたが弱い人間だということではないのです。本当は「人間は強い」のだと思います。なぜなら、心の奥に「安心できるこころ」が控えているのです。しかし、強くなるには、きっかけが必要です。人と相談することは、こころの解決の「第一歩」と思ってください。
どうかたいへんですが、本人しかわからないこころだと思いますが、誰かに話してみてください。
わたしたちは応援しています。
わたしたちは応援しています。…
 この下りがじつにいいですね。

4死ぬ力がある
 立花隆さんが、テレビのドキュメンタリーで、ご自身の膀胱がんの告白からはじまって、がんとはいったいどんなものなのか、どこまで治療ができるのか、いつごろ征服できるのかというテーマを掲げて、世界中の著明な、最先端のがん研究の専門家を訪ね歩き、解明しようとします。
 その結果は、がんは人が生きていくことを関係していること(細胞分裂の仕組みに関係があること、免疫細胞との関連など)、手術や放射線療法以外ではまだこれといって治療法がないこと(有効な抗がん剤は見つかっていないことなど)、征服するには100年以上かかるだろうということがわかります。
 そこで、彼は自身の膀胱がんが再発したときは、もう積極的な治療は行わないといいます。これをがん治療学会でも発表します。
 番組の最期に、たくさんのがんの患者さんを看取っている医師を訪ねます。そこで、緩和治療を受けている患者さんにも会います。
 そこで、医師から「人はみな死ぬ力を持っている」といわれます。また、患者さんから、人に支えられて感謝しているという言葉をもらいます。命がつながっていく、その命を支えてくれる人がいる。家族だったり、友人だったり、その支えを知ることが大切なんですね。
 患者であるわたしたちも、しっかり受けとめることが大切ですね。
 しかし、わたしにしても自分のこととなったら、死を受けとめることができるかどうか。まだ自信はありません。