医者にならない、とささやく

 毎月月初めの木曜日、地域で暮らす会が開かれる。
 昨日のテーマは、「医者不足」。
 最寄りの市立病院で常勤の内科医が辞め、その穴埋めをすべく、地元で開業している若手の医師たちが、毎週1日だけだが、助っ人として病院で診察を続けている。
 しかし、いくらがんばっても、常勤の医師が確保できる見込みはなく、助っ人の医師たちも疲れてきている。3月いっぱいで手を引く医師も出てくるようだ。
 地方の市立病院に、しかもかなり忙しいことがわかっているところに、常勤でやってきてくれる医師を見つけるのはたいへんむずかしい。
 このままだと、市立病院を存続させること自体がむずかしくなってきている。
 わたし自身も含め、いろいろな意見が出たが、市立という公立だけに事態はいっそう困難な状態になっている。


 何より医師を育てる。地元に帰ってきてくれる、地元出身の医師を育てること。
 地域で暮らす会の中嶋先生(市立病院の助っ人や在宅医療を行っています)は、診療所にやってくる中学生や高校生を見て、医者になれそうだなと思う子どもたちに、「医者にならないか」とささやく。
 なかに、進路に迷っている子もいて、医者もその選択肢に入ってくるようになったという。
「医者にならないか。たいへんな仕事だけど、人に本当に感謝してもられるし、いい仕事だよ」
 こんなささやきが、将来この地方の医師に生むことになる。

 この会に出席している看護師さんが子どものときに、兄弟が病気になり、母親も父親もその子のために奔走するようになり、ほうっておかれることが多くなった。
 両親は、病気の兄弟のことばかり気にして、ひとりぼっちにされてしまった。これは仕方がないと思っていたが、やはり寂しかった。
 ところが、兄弟が入院している病院に行ったとき、付いていた看護婦(当時)さんが、病気の兄弟だけでなく、彼女にもたいへん気を配って、いろいろ話しかけてくれ、すごくうれしかったそうだ。
 その看護婦さんを見て、わたしも将来あんな看護婦さんになりたいと思って、その夢を実現させました、といっていた。
 将来、医師や看護師を育てるのは、いま働いている医師や看護師でもあるのだ。


 そして、地域で暮らす会でも、話題になったのだが、医師や看護師が楽しく働ける環境をつくることが大切だ。それには、わたしたち市民の力が絶対に必要なのである。