医者に頼らない生き方11よく噛む

  食べることを大切にしたい。
 食べることは生きること、というのはうちのカミさんですが、食べることを生かすのはよく噛むことです。
 そんなわけで、今回のテーマは噛む。誰にでもできるし、すぐにできる。もちろん、道具はいりません。
 自分の歯を使いましょう。
 さて、今回の音楽は、ニコール・ヘンリー。Summertime、Fly me to the Moon、Cheeku to cheek
です。ニコール・ヘイリーは自主製作のCDが、HMVでものすごく売れ、話題になったシンガー。モデル、女優でもある才色兼備。

医者に頼らない生き方10「よく噛みましょう」という話
1 1回の食事にかける時間はどのくらい
 昔から、よく噛みましょうといわれますが、ひとくち何回ぐらい噛んでいますか?
 数えたことがない、当たり前ですね。毎回ひとくち何回噛むか、数えている人はいません。
 では、少し見方を変えて、毎食にかかる時間を教えてください。
 朝ごはんは? お昼ごはんは? 晩ごはんは?
 晩ごはんに一杯やりながら、晩酌を楽しむ人は結構時間をかけて食べていると思います。
 それにしても、2時間、3時間という人はまれでしょう。1時間もかけて食べていれば、後片付けができないから、早くしてよ、ときっと嫌味をもいわれるに違いない。
 晩ごはんにしても30分もかけていれば、いいところでしょう。朝ごはんにいたっては、早い人なら5分もかけない。寝過してしまったら、朝ごはんは立ったまま、立ち食いそばならぬ立ちパン、なんていうことをあるはず。
 この放送(午前11時と午後7時に再放送。月に3回毎週水曜日の放送です)を聞いていらっしゃる方では少ないかもしれませんが、都会に通っている(もしくは都会の)現役のビジネスマン、ビジネスウーマンだったら、朝の時間は少ししかとれないから、どうしてもごはんも簡単なもので時間もかけたくない。でも、朝ごはんをとっているから、ましといえるでしょう。朝ごはんを食べないとたいへんなことが体の中で起こるという話は以前の放送でさせていただきましたが。
 さて、次はお昼ごはん。前の日の晩ごはんの残りものを食べています、という内容の話ではありません。時間の話です。10分がいいところですね。しかも、テレビを見ながら。
 晩ごはんは、少し時間をかけていると思いますが15分から30分、20分ぐらいがいちばん多いのでは。
 食事に時間がかかるのは、食べる品数が多いからではありませんといいたいところですが、品数も量も多少は関係あります。しかし、いちばん時間がかかるはよく噛んでいるかどうかです。
 テレビで早食いをする芸人が、カレーは食べものではなく、飲みものです、といっていたのを覚えていますが、なんとも印象的でした。カレーを噛まずに飲んでしまう、そんなことをしょっちゅうしている人はいないと思いますが。

2 噛む力を知っていますか
 カレーを噛まないで飲み込んでしまう、というのは少し大げさですが、わたしたちもそれくらい噛んでいないではないでしょうか。
 ひとくち30回は噛みたいものです。
 じつは、わたしもあまり噛まないほうなんです。職業柄ですが、早食いが身についてしまったのです。ゆっくり飯なんか食っている場合じゃない、というように長年過ごしてきました。昼ごはんはもちろん晩ごはんもあっという間に食べてしまいます。
 いまでも朝ごはんも10分はかかっていません。お昼ごはんも同じ。晩ごはんをもう少し時間がかかっていますが、それでも30分はかからない。それだけ噛んでいない証拠でもあります。
 噛むという動作は、食べものをすりつぶすだけなく、食べものと唾液を混ぜたりしています。もうひとつ重要なことは大脳への刺激です。噛むと、その刺激は歯茎にある神経を通して大脳に伝わります。これが結構な刺激なのです。
 よく噛む歯を持っている人ほど脳の容積が減っていませんでした。東北大学大学院歯学研究科の渡邊誠教授が、宮城県仙台市内に住む70歳以上の高齢者1167人を対象に調査しました。MRIを使った検査で、噛むことができる歯を持っている人ほど、記憶をつかさどる大脳の海馬付近、意思や思考といった重要な機能を持つ前頭葉などの容積が減っていないことがわかったのです。
 噛むという行為は、たいへん微妙で緻密な作業です。噛むためには顎を動かしていますが、左右の筋肉、上下の筋肉を伸ばしたり縮めたりしています。そして、歯と脳の間には強力なネットワークがあるようです。非常に大きなストレスに見舞われると、奥歯をぐっと噛みしめてやり過ごそうとします。大脳が感じているストレスを、奥歯を噛みしめることで解消しようとしているのです。大脳と歯がつながっている証拠です。
 噛んで噛んで脳梗塞の後遺症を克服した人がいます。横浜で開業されている歯医者さんですが、訪問歯科診療に積極的に取り組んでおられる先生で、歯科医の世界では著名な人です。
 加藤武彦先生といいますが、63歳のときに脳梗塞で倒れ、かろうじて一命はとりとめましたが、口を含めて体の片側にマヒが起こってしまいました。先生ご自身、訪問歯科診療を通してこういう患者さんを何人も診てこられました。リハビリの大切さをよく知っていました。
 そして、脳血管がつまっているなら、よく噛むことで脳の血流がよくなるはずと考え、とにかくよく噛むことを心がけたそうです。よく噛むことがリハビリと考えたのです。食事時間はもちろんですが、食べていないときでも歯と歯を合わせ、噛むようにしました。噛んで噛んで噛みまくっていたところ、少しずつマヒがとれてきました。いまでは、以前を変わらないくらいお元気になられました。日本全国あちこちでご自身の体験を交え、口腔ケアの重要性を訴える講演をしています。
 まさに、噛む力です。

3 ひとくち30回噛みましょう
 噛む回数ですが、30回ぐらいが適当でしょう。105歳になる昇地三郎さんという方がいらっしゃいます。昇地さんは、うどんでもお蕎麦でも30回を噛みます。ちょっと硬い肉なら40回、ゆっくり時間をかけて噛むようにしているようです。
 101歳で亡くなられた三浦敬三さんも、総入れ歯でしたが60回は噛むようにしていました。三浦さんは、ご自身で鶏を丸ごと圧力鍋で調理して、それを骨までバリバリと食べていました。圧力鍋なので骨まで食べられるぐらい柔らかくなっていたのでしょうが、それにしてもすごいですね。もっとも入れ歯はよく調節してもらっていたようですが。
 30回噛むと、食べるのに時間がかかります。いままで10分ぐらいで食べ終わっていたのに、30分はかかるようになります。
 せっせと噛みましょう。噛むのは、お金をかからないし、誰にでもできます。そして、脳にたいへんいいのです。