医者に頼らない生き方15歯の話

 貧乏神神社に行ってきた。友人から長野県茅野に貧乏神神社があると聞いていたので、一度行ってみようと思っていたが、先日、腎臓の定期診断に通っている諏訪中央病院に行ったついでに探してみた。
 茅野の宮川あたりにあるということだったので、付近をうろうろしていると、三輪神社という由来のある神社の近くにある味噌屋さんの奥に貧乏神はいた。お参りは、普通の神社のように手を合わせてするのではなく(手を合せて拝んではいけないそうだ)、貧棒と名付けられた棒で貧乏神の代わりをしている木のようなものをたたき、さらにそれを足で蹴る。そして、貧乏神には大豆をぶつけ、「貧乏神、出て行け」と怒鳴る。貧乏神をたたいて、蹴飛ばす、ということらしい。
 貧乏神がなぜ味噌屋にいるのかというと、貧乏神は味噌が好きで舐めるという。味噌をなめるのは、いかにも貧乏神らしい。大豆をぶつけるのも、味噌好きということなら納得する。
 貧乏神に行ったあとは、三輪神社のそばにある鈿女神社に参る。鈿女神社は、天照大神が天の岩戸に隠れたときに、その前に踊った神様が祭られている。その神様は、おかめの由来のもとになっている。この神様は、貧乏神と反対に幸せを呼んでくれる。鈿という字を分けると金「かね」、田「た」になり、女は「め」と読めることから、「お金がたまる」ご利益がある。
 貧乏神が退散し、鈿女に祭られている神様がきてくれれば、いいことがあるという。本当にそうなってほしいものだ。

 さて、今回は「歯の話」です。
 エラフィッツ・ジェラルドとジョー・パスのデュオで、「バーモントの月」「バイ・マイ・セルフ」「スロー・ボート・トゥ・チャイナ」の3曲です。

医者に頼らない生き方 歯の話
1歯はこんなに大切
 わたしの尊敬している先生がいます。
 国が国民の健康増進・維持のためにはじめた「健康21」という運動があるのですが、歯の重要性を訴え続けて、その運動の中に歯の健康の項目を入れた人です。
 花田信弘先生です。現在は、鶴見大学歯学部で探索歯学講座の教授をしています。
 花田先生の持論があります。これで、わたしも歯の重要性に気づいたのですが、先日も新聞に載っていましたが、
「歯と口腔は摂食だけでなく、個人の意思や考え方を他人に伝える器官です。ですから、歯を大切にする国は栄え、大切にしない国は滅ぶとわたしは思います。歯の重要性を認識し、新たな歯の健康づくりを地域保険の中で進めていきましょう」
 と述べています。
 いよいよ歯の重要性に気がつかない国は滅びるというところまできましたか、という感じです。
 少し説明が必要ですが、じつは歯は食べるためにあるだけではないのです。
 歯は話すためにもたいへん必要な器官です。入れ歯を入れていると、病気(脳卒中など)になったときに外されてしまうことが多い。入れ歯を外されてしまうと、もごもごいっているだけで何をいっているのかよくわからなくなります。合わない入れ歯をしている人の話も結構聞き取りにくい。とくに年をとってくると入れ歯をうまく使えなくなってきますから、上手く話せなくなってきます。あくまでも機能的に、という意味ですが。
 そして、話をしているほうも、いっていることが伝わらないので、話をしてもだめだということなり、話さなくなってくる。
 コミュニケーションが失われていきます。
 わたしたち人類が、他の生きものと違って、さまざまなものをつくりだし、それを後世に伝えてこられたのも、コミュニケーションがとれるからです。
 そのコミュニケーションの基本となっているのは、歯なのです。
 歯を守ることが、人が人として生きられる非常に重要な要素になっているのを、もっと認識すべきだと花田先生はおっしゃっています。
 これほど明確に、病気(歯の病気)の予防の必要性を訴えられた先生はいません。
 健康でありたい、病気にかかりたくない、多少長生きしたいという、わたしたちの願いが、個人的な欲求でもありますが、人類存在という範疇にまで広がるのだと教えてもらいました。
 花田先生は、伝承をひとつのテーマにされていますが、お目にかかるたびに本当にいろいろなことを教えていただき、たいへん感謝しています。
 先生の本を2冊作らせていただきましたが、ぜひ読んでもらいたい。小学館文庫の『おとなこそ歯が命』新潮文庫『もう虫歯にならない』です。

2歯はどのくらい磨いていますか
 わたしが通っている歯医者さんでは、久しぶりに行くと問診があります。わたしの場合は定期検診に通っているので、半年に1度ぐらいになりますか。
 問診には、歯をどのくらい磨いていますか、という質問や、どんな薬を飲んでいるか、持病があるか、食事時間は決めているか、間食はするか、飲みものは何が好きかなど、いろいろ聞かれます。
 食習慣から、虫歯になりやすいかどうかがわかります。間食をする人は虫歯になりやすい。また、服用している薬によって唾液が少なくなって、歯の病気になることがあります。
 関さん(放送の聞き手)は、歯磨きにどのくらい時間をかけていますか。
 歯磨きをするときに、何を使っていますか。歯ブラシだけですか。
 わたしの例をいいましょうか。
 朝と夜に歯を磨きます。朝は食事の後に、歯磨きをつけて磨きます。歯磨きは食事のあとにしなくては意味がありません。夜は寝る前、といっても大体9時ぐらいですが、リビングでテレビを見ながら、時間をかけてじっくり磨きます。ふつうにはブラシを使って磨いて、次に電動歯ブラシを使って磨き、仕上げに歯間ブラシで歯と歯の間を清掃します。
 それでも、歯医者さんにいってチェックしてもらうと、磨き残しがあります。歯を磨くときに、右利きの人はどうしても左側がよく磨けません。とくに奥歯は磨きにくい。
 関さんは、歯磨きは洗面所ですか。
 リビングでテレビでも見ながら磨くのは、歯磨きに時間をかけてしっかりやろうとしたら、洗面所で立って歯磨きするのはつらい。そこで、座ってできる、リビングにしたのです。リビングで磨きますから、歯磨き粉はつけません。
 手鏡を持って、歯ブラシがきちんと歯に当たっているか確かめながら、磨きます。結構時間がかかります。
 これも習慣になれば、苦にはなりません。かえってきちんと磨かないほうが気持ちが悪いものです。
 わたしは、もともと歯は丈夫なので、歯が悪いから歯医者さんに行くのではなく、定期健診です。歯も定期的に調べてもらわないと、自分では悪いところがわかりません。
 ぜひ定期健診を受けてもらいたいですね。定期健診で、歯の磨き残しもわかりますし、歯石もとってもらっています。
 花田先生をはじめ、歯の専門医には何人もたいへん親しい人がいて、もっと歯の大切さを語らなければと思っています。

3歯があるということ
 自前の歯を持っている人ほどボケないというデータがあります。
「アジア・オセアニア国際老年学会議」で発表されました。東北大学大学院の渡邊誠・歯学研究科教授のグループが、宮城県仙台市内に住む70歳以上の高齢者を対象に調査したところ、自前の歯の本数と認知症が関係していることがわかったのです。
 健康診断を受けた1167人(仙台市周辺)に認知症の程度を図るテストを受けてもらい、まったく正常な群、軽度の認知症が疑われる群、認知症が疑われる群の3つのグループに分類しました。この3つのグループの人たちで残っている歯の数を比較しました。
 その結果、認知症がまったくない正常な人たちは平均で14.9本の自前の歯を持っていました。軽度の認知症が疑われる人たちは13.2本、認知症の疑いが強い人たちでは9.4本でした。健康な人ほど自前の歯をもっている本数が多いことがわかります。認知症が疑われる人より健康な人は自前の歯を5本も多く持っていたのです。口の中には、32本しか歯はありません(親知らずを除く)から、5本はかなりの違いといえるでしょう。
 さらに、渡邊教授らは残っている歯の本数や噛みあわせることができる歯の本数と、MRIを使って脳の容積を調べ検討しました。すると、残っている歯の本数の少ない人、噛み合わせることのできる歯の本数の少ない人ほど、記憶をつかさどる脳の海馬付近、意思や思考といった重要な機能を担う前頭葉などの容積が減っていました。
 つまり、自前の歯の少ない人、そして噛むことができない人ほど、ボケやすいことがわかったのです。
 歯周病などで歯を失っても、入れ歯をつくればいいと思っているでしょうが、自前の歯をもっていることがいかに重要かがこのレポートでよくわかります。また、歯を失ったら、放っておかずにきちんと合った入れ歯をつくったほうがいい。
 自前の歯で食べものを砕き、唾液を混ぜ合わせて消化管に送り込む。歯のこの働きを通して、歯茎に刺激を与えられ、これが脳の活性化につながると思われます。歯がなくなり、歯の周辺の神経が失われると、刺激が脳に伝わらなくなり、それが脳に悪影響を与えるのでは、と渡辺教授が述べています。
 噛むという行動は手足を動かすより緻密で複雑なのだそうです。確かに、口の中ではごく小さなものを感じ取りますし、それを取り除くこともできます。噛むには、左右のあごの筋肉を伸ばしたり、縮めたりしなければなりません。歯と脳の間には強力な神経のネットワークがあり、噛むことで脳の血流や代謝がよくなり、活性化するのです。