松本熟年体育大学

1. 松本市熟年体育大学について
 平成9年ですから、1997年。いまから14年前に、長野県松本市で超少子高齢型人口減少社会に対応する街づくりとして、「健康寿命延伸都市・松本」の創造に向けて、市民ひとりひとりが健康で自立し、明るく、元気に健康寿命を全うしようという運動がはじまります。
 こういう運動の存在を知るだけでも、地方都市でもできることがあると思いますね。
 松本には信州大学の医学部があります。信州大学医学部と協力して、市民の健康づくり運動がはじまるのです。
 毎年受講生を募集しています。
 残念ながら、参加資格があるのは、松本市内在住の方で40歳以上の人。講義があったり、ウォーキングをしたり、脳のトレーニングを受けたりして、2年間。専門家による個別の指導も受けられます。個別指導が受けられるのもいいですね。自分に合った運動や食事を見つけたい。
 この間、健康診断や血液検査を受けて、体力測定などをします。
 信州大学では、運動をしているときの血圧や体温の変化などを調べたり、運動の効果(生活習慣病との関連)を確認したり、運動能力と介護状態との関連を調べたり、それを学会に発表しています。学術的な研究もしているのです。
 熟年体育大学(略して熟大)が最初に取り組んだのが、1日1万歩のウォーキングです。
 過去9年間に累計すると、1800名に及ぶ受講生が取り組みました。
 全体の30%の人がほぼ毎日1万歩のウォーキングしてくれたそうです。
 その成果ですが、体重や体脂肪の減少、血圧が正常値に低下、善玉コレステロールの増加、悪玉コレステロール中性脂肪の減少などが見られました。
 ウォーキングが、生活習慣病にはたいへん有効という証拠になりますが、毎日1万歩を歩いても、脚の筋力、持久力といった、介護状態にならないためのからだづくりにはあまり役に立っていないことがわかりました。

2. 介護状態にならないように
 脚に筋力があれば、転ばない。寝たきりの原因になる転倒の防止に脚の筋力が欠かせません。
 義父と暮らしていたときに、ちょっとした坂道で転ぶのも間近で見ました。足の筋力が衰えているので、からだを支えられない。そして、倒れるときもバタンという感じで倒れるのです。
 高齢者はとくに、脚の筋力、おもに太ももの筋力をアップさせることが肝心です。
 そして、ウォーキングだけでは、太ももの筋力を鍛えるには軽すぎるのです。
 そこで熟大では、スポーツジムに協力してもらい、マシンを使って、脚、太ももの筋力トレーニングをしました。このコースには600人が参加してくれました。
 参加した人の1年後、みな太ももの筋力が20%もアップし、立ち上がるのが楽になった、長時間歩いてもまったく息が上がらない、からだが軽くなったといった感想があり、効果は確かに認められました。
 しかし、マシンを使ったトレーニングは、誰でもできるというものではなく、マシンを使わないトレーニング法の開発が望まれます。
 そこで生まれたのが、インターバルウォーキング。

3. インターバルウォーキングとは
 もともとは、インターバルトレーニングといわれるもので、全力で走ることと軽く流して走ることをくり返し行う方法です。陸上競技のトレーニング方法で、もっともきついといわれています。
 ヘルシンキオリンピックの長距離種目で3個の金メダルをとったチェコのエミール・ザトペック選手が考案しました。このトレーニングの結果、金メダルを3個もとれたのではないかといわれています。
 ここで、インターバルウォーキングを紹介しましょう。
 簡単にいえば、早歩きとゆっくり歩きを交互に行います。
 まず、ウォーミングアップを十分にしてください。そして、
A はあ、はあと息が上がるぐらい、速足で歩きます。これを3分間。
B 次に呼吸を整えて、ゆっくり歩きを3分間。
C また、早歩きを3分間。早歩きとゆっくり歩きを交互にくり返します。
 早歩きとゆっくり歩きを3分間ずつ交互に5セット。30分になります。
 あとは、ゆっくり深呼吸などをしてクーリングダウン。
 たったこれだけで、5か月で太ももの筋力が10〜15%、持久力も10%向上したのです。
 インターバルウォーキングをする人42人、通常のウォーキングをする人52人、何もしない人46人を5ヶ月にわたって効果を調べてみました。平均年齢は64歳の中高年が対象です。
 インターバルウォーキング群は、1週間に30分以上インターバルウォーキングを4回以上してもらい、通常ウォーキング群は1日1時間以上のウォーキング4回以上してもらいました。
 その結果は、前述した通り。
 インターバルウォーキングは、早歩きとゆっくり歩きを交互に行いますが、実験に参加した人の早歩きの時間は平均して20分、ふつうのウォーキング時間は26分でした。
 参加した人の体重・体脂肪、血圧(最高血圧最低血圧ともに)、コレステロール、血糖値、ヘモグロビンA1cのすべてが改善されました。
 そして、体重、血圧、血糖値が正常値より低かった人は、正常値の範囲になったのです。これも興味深いことです。
 体力が弱かった人では、1週間目あたりから筋力の増加が認められたそうです。
 誰にでも、簡単にできる、インターバルウォーキング。
 ぜひウォーキングに取り入れてください。
 じつは、わたしも毎朝ウォーキングをしていますが、最初は平たんな道を歩いていたのですが、そのうちもう少し距離を伸ばそうということになり、坂道を下ったり、下がったりすることにしました。下がるのはたいへんではありませんが、坂道を登るのは結構つらい。いまは朝は毎日氷点下、マイナスですが、坂道を上がってくると、息も上がるし、軽く汗ばみます。
 約40分ですが、15分は坂道を上がっていると思います。
 坂道を利用したインターバルウォーキングというわけです。
 坂道が多くて、歩くのもたいへんですが、知らず知らずのうちにインターバルウォーキングをしていることになります。


4. 高齢者はインターバルウォーキングをこわけに
 たとえば、朝、昼、晩と3回に分けて、早歩きを2分、ゆっくり歩きを1分、早歩き2分、ゆっくり歩き1分、早歩きを2分、ゆっくり歩きを1分。毎回、9分で、早歩きは6分。
 これなら、誰にでもできますね。