食べること

 食べる、これは健康を守るうえでもっとも大切といっていいだろう。
 わたしは、菜食主義者ではない。
 美味しいものならなんでも、というタイプである。
 伝統的なものを好きだし、新しい料理も好き。
 最近出会った、美味しい料理のことを伝えます。

1. 料理の味を伝えること
伝えたい料理の味があった。三重県志摩の賢島にあるフライムリゾート賢島のフランス料理である。アッシュ・ドオール
神戸北野ホテルの総料理長を務める山口浩がプロデュースをしている。フランス料理というと、最近はヌーヴェルキュイジーヌが話題になっている。ポール・ボキューズアラン・シャペル、トロワグロ兄弟がその作り手の代表だが、バターやクリームを使ったこってりとしたソースで味付けをせずに、新鮮な材料そのものを活かす料理法である。
山口はフランスの三ツ星レストランのラ・コート・ドールで修業をしてきた。ラ・コート・ドールはベルナール・ロワゾーがシェフをしていた。彼の編み出した料理はバター、クリーム、オイルをいっさい使わずに、水と肉や野菜から出てくる汁でソースをつくる。そこで、「水の料理」といわれている。ヌーヴェルキュイジーヌの中でも際立っている。
アッシュ・ドールでも素材そのものから得た旨みと水のみで料理をするので、それだけ素材の確かさが求められるが、今回いただいた料理の中で、その「水の料理」の醍醐味を強く感じたのは、20種類の野菜を使ったコンポジションだった。前菜なので、野菜はごく少量なのだが、蕪、ホウレンソウなど、それぞれの季節の野菜の味がしっかり残っていて、さらに調和がとれている。なんといっても、野菜の旨みが微妙に口の中に残る。野菜を茹で上げ、その汁でソースをつくっているのだろう。しかし、野菜は歯ごたえがあり、それぞれの味がする。そして、それらの調和がとれている。これはすごいと思った。
メイン料理はみすじ肉の煮込みにした。志摩に行ったのに、魚を食べずに肉、しかも煮込み料理にしたのも、「水の料理」を楽しもうと思ったからである。
みすじ肉は、たたきや刺身などで食べられることが多い肉である。それを煮込んであるので肉の味はたいへんさっぱりしている。肉の旨みは感じられないといってもいいかもしれない。
絶品は、この肉を煮込んだときにできる汁と赤ワインを風味にしたソースだった。煮込み料理のメインは肉ではなく、このソースだと思った。
もちろん肉にもしっかり絡めて食べたが、パンで拭いとってソースを完全に食べた。
これが水の料理なのか。
ロワゾーは、晩年ソースに少量のバターやオイルを使ったと聞くが、ここでは水の料理というコンセプトは生きている。
フランス料理に限らず、日本料理でも出汁、ソースが決め手になる。
しかし、素材からとったものだけで勝負をするのは、かなり勇気がいるだろう。
食べるほうからすると、想像していた料理の味の期待を裏切られる思いがある。それが面白い。
水の料理は、食べる人の感性をためすことになる。これがおいしいと思う人、物足りないと思う人、裏切られたと思う人、いろいろいていい。
わたしは美味しいと思った。できれば、神戸北野ホテルで山口自身が指揮をとる水の料理を食べてみたいと思った