デブは夜にやってくる

1. 食べ方が問題になってくる
それぞれの家庭に伝わる、家風のようなものがあります。食べ方もそのひとつです。
たとえば、自営業の家庭では店の仕事が終わってからの夕食となるでしょう。当然夕食の時間が遅くなります。食事の内容も、お母さんも働いていれば、お惣菜屋さんから買ってくる出来合いの総菜が食卓に並ぶことが多くなります。これは致し方ありません。食事の用意をする時間がないのですから。
昔は店やものといって、お蕎麦屋さんやお寿司屋さんから出前をとることがありました。いまはケータリングといいますね。ピザの宅配でしょう。サラリーマンの家庭では、滅多に出前をとることはありませんでしたが、自営業のご家庭では、出前をとることはそんなに珍しくありません。
食事の仕方も内容も、それぞれの家庭で違うはずです。それぞれ育った家庭によって、食事時間なども異なります。それが常識になっています。
どんなものを食べてきたかという食事の内容も知らず知らずに身についていますが、食事の仕方もなかなか変えられません。
あなたは何時に食事をしていますか?
ちょっと振り返ってみてください。
さらにどんな気持ちで食べているでしょうか。
また昔の話になりますが、食事のたびに「お百姓さん、ありがとう」といって食事をする家庭がかなりありました。ご飯を食べることはお米をつくってくれた人に感謝することからはじまるというわけです。
これらをすべて食行動といいますが、食行動は各家庭の伝承によって培われています。
知らず知らずにしているのです。
ですから、あらためて聞いてみると「えっ」と驚くようなこともありますし、「なるほど」と大いに納得することもあります。
あなたの食行動はいかがでしょう?

2. 夕食は午後5時からという人が太らないわけ
さて、あなたの食行動を振り返ってみて、夕食は何時に食べていたでしょうか。
わたしの知り合いで夕食は午後4時から5時の間という人がいます。ずいぶん早いと思いますが、ワイン用のブドウの栽培をしている人で、朝が早く5時には起きて朝食をとり、ブドウ畑に行きます。ひとりで500本のブドウの木を管理しているので、けっこう忙しい。天候によって作業は左右されますから、どうしても仕事が集中してしまいます。お昼は11時、それから午後の作業に入ります。3時ぐらいには仕事を終え、家に帰ってシャワーを浴びたりしたあとで食事になります。
遅くとも5時には食事の時間です。奥さんも最初はたいへんといっていましたが、慣れたといいます。もともとはサラリーマンですから、食事時間はものすごく変化しました。
じつは、夕食時間が早い彼は太っていません。
ここで問題にしたいのが、食事をする時間です。
時間栄養学という、時計遺伝子と食事時間、栄養の摂取を研究する学問があります。
まず時計遺伝子に関して、説明しましょう。
最近の研究で、わたしたちのからだの中はいくつもの「時計」があることがわかってきました。
朝日を見て一日の始まりを知り、夕日を見て一日の終わりを知る。大まかにいうと、太陽の光がわたしたちの一日のリズムをつくっているのですが、体内リズムという別の時間がわたしたちの中を流れています。
たとえば、朝になると血圧が高くなり、夜になると血圧が下がるのもそうですし、夜になると眠くなるのもからだの中に「時計」があるからです。体温が1日の中で変化するのもホルモンの分泌も、体内の時計がコントロールしています。太陽の光にコントロールされているものが多いようです。
時計遺伝子と栄養摂取の関係、時間栄養学を研究している県立広島大学加藤秀夫教授によると、1日3食きちんと食べている人で太る人と太らない人がいるといいます。学生を使って調べてみると、1日の食事量の半分を夕食で食べている学生は太り、朝ご飯をしっかり食べて夕食は軽くしている学生は太りませんでした。

3. 深夜2時に分泌量がピークになるもの
夕食を軽くするとどうして太らないのか。これをあるたんぱく質に関係があると解明したのが、日本大学の榛葉繁紀准教授。
わたしたちのからだのなかには、血液中の脂肪をからだの中にとりこむために働くある種のたんぱく質があります。BMAL1(ビーマルワン)といいます。ビーマルワンの分泌量は、1日の中で大きく変化していることがわかったのです。起床後からみると、14時間から高くなりはじめ、18時間後にいちばん高くなります。朝7時に起きたとすると、夜9時から高くなり、深夜の2時にピークに達します。
深夜の2時近くに血液中に脂肪があれば、脂肪をせっせととりこんでしまうというわけです。夜9時過ぎ、10時過ぎまでゆっくりだらだらと食べていると、太ってしまうのはこのビーマルワンが働くからです。
食べものによって消化時間が違いますが、夜遅くに食べると太ることは間違いがありません。
こんな動物実験があります。マウスに同じ量のエサを夕方6時と夜9時に時間を分けて与えました。するとわずか4日間で9時にエサを与えたマウスのほうの体重が約5グラムもふえたのです。わずか5グラムとお思いでしょうが、マウスの体重は約40グラムです。約1割も体重がふえたことになります。
別の実験ですが、同じ体重のマウスに1日1回高カロリーのエサを与えました。前の実験と同じように、エサを与える時間を変えてみました。
ひとつのグループは午後3時、もうひとつのグループは午後6時。1週間後、体重を測ってみると、午後3時グループでは1・6グラムの増加、一方午後6時のグループは5・4グラムもふえていました。
夕方食べたほうがやせるのではないかという疑問が出てきますが、今度は午後3時という時刻にその理由があります。
ビーマルワンの分泌量は、朝起きたときは25%ぐらいで午後3時にいちばん低くなります。そこから上昇していき、深夜2時ぐらいにピーク(100%)に達し、それからまた下降していきます。
つまり、午後3時に高カロリーの食事をしてもあまり太らず、ビーマルワンが上昇に向かう午後6時以降に食べると太るのです。
ビーマルワンは、暗いとふえ、明るいと減っていきます。太陽の光に左右されません。
ところで、午後3時といえば、おやつの時間です。そして少し小腹がすいてくるときです。このときは、食べても大丈夫。太りません。夕食を減らすために、午後3時に少し食べておくのはいいかもしれません。夕食を減らすのが目的ですから、夕食が必ず減らさなければ意味がありませんが。
夜遅くに食べていると、必ず太ってきます。夕食もできれば8時から9時までは食べ終えているようにしたいものです。脂っこいものを食べるなら、昼食にするというのもいい方法です。
ビーマルワンに注目しましょう。