民間療法のウソとホント

1. 効いた、治った、よくなった
 わたしが編集者としてスタートを切ったのは、日本で初めての健康雑誌『壮快』の編集部でした。
『壮快』は、健康な人に健康情報を送るというコンセプトでスタートした雑誌でした。これは画期的な発想だったといまでも思っています。
現在では、いくつもの健康雑誌が新聞の広告欄をにぎわしています。
健康雑誌のおかげで医療情報が一般の人々にも広まりましたし、健康への関心も高まったと思います。それは大きな貢献だったと思うのですが、一方で、道を誤ったのではないかという思いがわたしにはあります。
『壮快』が登場する以前、医療・健康情報のほとんどは医師や看護師など、医療関係者のもので、一般の人々は、医療・健康情報を手に入れることができませんでした。
医事評論家という人たちが医療・健康情報を発信していましたが、彼らもほとんどが医師の資格を持っていましたから、医療・健康情報は限られていたといえるでしょう。
創刊当初は、むずかしい医療情報を専門知識のない一般読者にもわかりやすく解説することに苦労したものです。しかし、基本的に医療情報は楽しく、おもしろいものではありません。
そこで、読み物としてのおもしろさを求めて登場したのが体験談です。
さまざまな病気の体験者の話ほど、身につまされ、共感を呼ぶものはありません。そして、その病気を克服した人の話はなお感動的です。体験した人の話ほど、説得力のあるものはありません。
医師や専門家がいくら上手に解説しても、体験者のひとことにはかないません。
いつの間にか健康雑誌は正しい医療情報をわかりやすく伝える雑誌から、読んでおもしろい体験談雑誌へと変貌していったように思います。
テレビでひんぱんに流れる健康食品のコマーシャルでも、
「○○のおかげでひざの痛みがなくなって、歩くことがおっくうでなくなりました」、
「朝の目覚めがすっきりしました」、
「はっきりものが見えるようになって感謝しています」
体験者がうれしそうに語ります。
はっきりと効能をうたってはいないのですが、観ている人には効果を期待させる作りです。
「これはあくまでの体験者の感想です」と画面のすみのほうに断りのテロップを流していますが、あたかも、効いた、治ったと感じさせるような作りであることには変わりはありません。

2. 民間療法の根拠を探ってみた
健康雑誌に限りませんが、これだけ体験者がいるのなら、これらの民間療法や健康食品にはどんな有効成分が含まれているのでしょうか。その有効成分はどのような働きをするのでしょう。
こうしたさまざまな有効成分に関して、医師や研究者は調べ、その成果は論文としてさまざまな学会に発表されています。
これらの論文を調べていけば、民間療法や健康食品の裏付けがとれるかもしれない。
そこで、750万件の論文が掲載されている論文サイトでひとつひとつチェックしていきました。
調べてみたものは、アガリクス、AHCC,サメの軟骨、プロポリス、黒酢、コラーゲン、ヒアルロン酸、グルコサミン、ゴマなど、話題になっているものです
もちろん、科学的に証明されないから、そういう健康食品や健康法は一切認めないとはいいません。からだの不思議はまだまだ解明されないことも多いからです。
健康雑誌が、民間療法や健康食品にかたよって行くきっかけは「紅茶キノコ」の流行にあったのではないかと考えるわたしは、最初に「紅茶キノコ」をとり上げた編集者として、民間療法を再検証する責任があるのではないかと考えました。
そして、わたしたちが健康に暮らしていくために、本当に必要な情報はどういうものかを考えてみる必要があると考えたのです。
書いた本のタイトルは『民間療法のウソとホント』(文春新書)。
自分で自分のからだを守るために、ぜひお読みください。