健康情報のつくられ方

1. 変わったあいさつ文
民間療法のウソとホント』という本を書いたのですが、その中で健康情報がどのようにつくれているのかということも書きました。
健康法を取り上げる場合、どのくらいの根拠があるのかというと、これがあまりあるとは思えない。
必ず登場するのが体験談です。体験している人は確かに存在します。
しかし、その体験が誰にでもあてはまるものではありません。
体験談はよくなった人の話ですから、よくならなかった人の話は聞くことができません。
いつも思うのですが、よくならなかった人はどうしたのでしょうか。
おそらくやめたのでしょう。体験談のかげには、やめた人もいます。
どうしてやめたのか。それを取り上げてほしい。
科学的ということではないのですが、少なくとも論理的にわかるように説明してほしい。
科学的というと、専門家がいなければ立証できません。
これをするには、時間もお金もかかります。簡単にはいきません。
さまざまな実験も必要になりますし、それを分析する専門家が必要です。
たくさんの労力とお金、それに時間がかかります。
それにしても、健康法、健康情報として発信するなら、それなりの根拠がなければいけないと思っています。
とくに、健康雑誌で紹介される健康法には、こうした根拠が求められるのではないでしょうか。
じつは、健康雑誌でいちばん歴史のある『壮快』を出版しているマキノ出版の社長が自社紹介、あいさつ文を出しているのですが、それを『民間療法のウソとホント』で紹介したのです。
先日、ブログを書くので確認しようと見たところ、書きなおされていました。
誰かが、書きなおしたほうがいいといったのかもしれませんが、本当におかしなものでした。
わたしが本で紹介したものを以下に記しておきます。これが、サイトにありました。



「―当社は、“はやらせる”のが好きな会社です。
 古くは紅茶キノコから、酢大豆、尿療法、ヨーグルトきのこ、ダイエットテープ、美肌水、にがり、爪もみ、トイレ掃除、魔法の言葉、腰回し、手相書き、朝バナナ……。
 これすべて、私たちがはやらせました。
 みーんな消えていったもの?
 いえいえ、今やどんな辞書にも載っている「半身浴」。これは『壮快』が特集のタイトルで初めて使った編集部の造語です。
 ニンジンジュース。これも今やトマトジュースより出荷量の多い健康飲料の定番になりましたが、『安心』がさかんに特集したころ、市販のものはありませんでした。
 これらを世に出したのは、私たちの雑誌や書籍、ムックの企画です。私たちは企画するのが大好きな会社なのです。
 企画を立てる際に大切にしているのは、企てる心意気です。
「くわだてる」の語源は、くはびら(足の先)を立てる
 あるいは、くわ(鍬)を立てる
 だそうです。
いずれにせよ、何かを新しく始めようという意気込みを強く感じさせる言葉です。
 私たちはこれからもいろんなことを企てます。 
どうぞ、お付き合いください。―」


ところで、いまは、


「辞書に残る言葉を紡ぐ
酢大豆、尿療法、半身浴、リンゴダイエット、にがり、朝バナナ――これらのブームはみな当社が発信源です。
このうち半身浴は、国語辞典にも載っています。でもこの言葉は、約20年前、当社の雑誌『壮快』のタイトルで初めて使われた造語なのです。流行し、定着し、辞書に残る。そんな価値ある情報をお届けするのが当社の夢です。
読む方たちの発見と希望、私たちの夢――が詰まった本を出し続けたいと思います。」



もともと『壮快』も造語です。いまや辞書にも載っています。
そういう意味では、このあいさつ文のほうがいいでしょう。
問題は中身ですが。
それにしても流行らせよう、流行らせようとするのは、少し疑問があります。

2. テレビの健康情報
NHK教育テレビで放送されている「きょうの健康」は違いますが、NHK総合テレビで放送されている「ためしてガッテン」は明らかに視聴率を意識してつくられています。
健康法から最新の医療情報まで紹介されますが、とりあげる健康法によってはデータが少ないことが気になります。
とくに検証する人が少ないほど、その効果は信頼できません。また、効果があるというのはわかりますが、反対に効果がない場合についても紹介してもらいたい。効果がない場合の考察もあって、正しい情報といえるのではないでしょうか。
しかし、なかには、これは信頼できるというものもあります。
それは緑茶(深蒸し茶)の効用でした。
10万人以上の都市で、がんによる死亡率を低い順で調べると、静岡県掛川市は女性が1位、男性は2位とたいへん低いことがわかりました。
掛川市では、がんによる死亡率が低いだけでなく、生活習慣病になる人も少なく、その原因を「ためしてガッテン」が探っていきます。
すると、住民がよく緑茶をよく飲む習慣があることがわかりました。
そして、すでに農林水産省の委託事業として、掛川市民5000人〜1000人の協力を得て、緑茶の飲用と病気のかかわりを調べていることもわかりました。おそらくこの情報を前もってしていたと思われますが、「ためしてガッテン」は掛川市に注目します。
ところで、農林水産省もかかわっている調査には、ある介入試験が行われています。
その内容は、試験に参加してくれる市民に、試験開始1ヵ月前から緑茶、紅茶、ウーロン茶など、カテキンが含まれているお茶の飲用を制限しています。
そして、試験中は緑茶の新製品を1日3回飲んでもらいます。試験の開始、中間、終了時の3回にわたって、身体測定、血液・尿検査、さらに食事の検査、運動量などを調べ、生活習慣病との関連をみています。
試験の開始前に、緑茶などの飲用を制限し、その作用がなくなったと思われるときに、あらためて緑茶、このときは試験用につくられた、均一のお茶を飲んでもらっているのです。こういう試験を介入試験といいます。意図的に介入しているところから、介入試験と呼ばれています。
そして、もう一つのポイントは、こうした検査を、NHKの番組が行うものではなく、掛川市が市民の協力を得て、掛川市立総合病院や東北大学の研究者が試験を行っていることです。
試験を行う主体が自治体や大学であるために、研究そのものの精度が高い。さらに、参加者が多いこともあって、この試験の結果は信頼に足ります。
このような形で、「ためしてガッテン」が健康法を紹介することはあまりありません。
わたしも思わず、番組で紹介されていた、お茶の葉をもう一度すり鉢ですったお茶を飲みたくなります。
多数の試験者がいること、地域での比較調査をしていること、調査の母体が専門集団であること。
これは、科学的な調査といえます。
テレビ的な映像として、元気なおばあちゃんが登場しますが、それがなくても、信頼がおけます。
しかし、このような形で健康法を紹介することはきわめてまれです。
調査も、番組スタッフが行い、試験者の数も少ないのが常です。
それにしても効いた人だけをとり上げるのではなく、効果がない人もきちんと取り上げ、その理由を明確にしてほしい。少なくとも、なぜ効果がなかったのかということもあわせて教えてもらいたい。
健康情報は、人の命とかかわります。
それだけ慎重に扱ってほしいものです。

深蒸し茶ではないのですが、ふつうのお茶をすり鉢ですって飲んでいます。これが美味しい。
最近、はじめた健康法のひとつです。