大腸がんとヨーグルト

先日、週刊ポストから連絡があって、大腸がんに関してコメントをもらいたいといわれました。
大腸がんにヨーグルトがいいという報告があったので、それについてコメントしてほしいとのことです。
大腸がんは、がん研究振興財団の予測によると、2015年には、日本人がかかるがんの1位になるといわれています。そろそろ今年も終わりですから、新しい年になったと計算すると3年後ですが。そんな遠い話ではありません。
大腸がんが、胃がんや肺がんを抜いて1位に躍り出ようとしているのです。
大腸がんがふえてきた背景は、肉をはじめ、ハムやソーセージといった肉の加工品をたくさんとるようになったこと。高脂肪の食べものがふえる一方で野菜など繊維質の多いものを食べることが減り、腸内で腐敗菌がふえてきたことが原因といわれています。
腸内の腐敗菌といいましたが、大腸がんを引き起こす可能性がある毒素産生型フラジリス菌という腸内細菌があります。
フラジリス菌は腸内細菌で腸内にいつもいるいわゆる常在菌ですが、毒素を出すものと出さないものがあります。
このうち毒素を出すものによって、大腸に自覚症状のない炎症が起き、それは慢性的になり、大腸がんを引き起こすひとつの原因になるのだそうです。
事実、結腸がん(大腸がんの一種)になる人は、この毒素を出す腸内細菌を持っている人が多いのです。
この毒素を出す腸内細菌が、ヨーグルトを食べることで10分の1に減少することがわかりました。
毒素を出す腸内細菌を持っている32人に、ビフィズス菌を含むヨーグルトか牛乳をとってもらい、8週間後に検査しました。
すると、ヨーグルトを食べてもらったグループで、毒素を出す腸内細菌の量が、1000万個から100万個程度まで減少したのです。
100万個という数字はそんなに減って印象はないかもしれませんが、腸内細菌の数は人によって多少異なりますが、100兆個といわれていますから、1000万個が100万個に減ったのはすごいといえます。
この研究をしたのは、東京医学大学茨城医療センター消化器内科センター長の大原正志教授です。
大原教授は、6年前から研究をはじめ、ヨーグルトなど乳製品が予想以上に効果があることに驚いたといいます。
日本人の約1割の人が、この毒素を出す腸内細菌を持っているといわれています。


腸内細菌の数は100兆個といわれています。わたしのからだは60兆から70兆個の細胞からできていますが、その細胞の数より多い。腸内細菌が細胞より小さいので、腸内におさまっているのですが、腸内細菌をすべて集めると1・5キロぐらいになるそうです。ちなみに、うんこの半分は腸内細菌そのものかその死骸なんだそうです。
腸内細菌にも善玉と悪玉があるのですが、ビフィズス菌などが善玉菌の代表ですが、このほかにもいくつもの善玉菌が見つかってきています。悪玉菌はウェルシュ菌が代表ですが、うんこの匂いがくさいのは悪玉菌が多いからだそうです。
最近話題になっているのがプロバイオティクスという考えです。
プロバイオティクスとは、簡単にいうとからだにいい腸内細菌をふやそうということです。いい腸内細菌をヨーグルトなどの形でとったり、腸内細菌の栄養となるもの、オリゴ糖などをとったりする方法です。
いい細菌との共存しようという考え方で、じつはこれと反対のものがアンチバイオティクス。アンチバイオティクスは、抗生物質です。
細菌を殺してしまおうというアンチバイオティクスが抗生物質。生物にアンチ、反対という意味ですから。
しかし、抗生物質を多用すると、抗生物質が効かない細菌が生まれてきます。これが院内細菌のひとつとしても問題となっています。
何が何でも殺してしまおうというのは、少し無茶な考えですね。
いい細菌だけでなく、細菌との共存も必要なのではないでしょうか。
バランスが肝心です。


以前口の中の細菌の話を聞いたときに、口の中の細菌をすべて殺してしまうような方法はよくないと聞きました。
細菌をすべて殺してしまうと、細菌に対する抵抗力が弱くなり、そんなに強い細菌ではないのに感染症を起こしてしまったりするといいます。
また、まったく無菌状態になると、かえってからだに悪い菌が棲みつきやすくなるのだそうです。
いい細菌の数をふやすことは、イス取り競争のようにいい細菌が棲みつくようにしてやることが重要だと聞きました。


大腸がんの原因は、遺伝や生活環境が2割、7割が食生活にあるといわれています。
食生活、食事の内容が腸内細菌にも大きな影響を与えてきます。
腸内細菌というとヨーグルトなどの乳製品がやはり気になりますが、食べものでいうと肉が多いと腸内細菌も悪い菌がふえてくるそうです。
肉を食べたら野菜も忘れずに食べるということですね。
私見ですが、日本人はもともと肉食ではなくて草食だったのではないでしょうか。
たんぱく質は、魚や貝類からもとりましたが、多くが大豆製品。豆腐、味噌などが中心でした。
腸内細菌もあまり肉を食べなかったころも、善玉菌が多かったのではないでしょうか。
大腸がんが日本人がかかるがんの1位になるということは、それだけ日本食が失われ、肉食が中心になってきているからだと思います。
腸内細菌の状況を知るには、うんこをみること。
黒くて固いころころ便、臭いのはだめですね。便秘が続くのもよくありません。男性に多いのですが、便秘と下痢をくり返す人も腸内細菌の状況がよくない。
力まずにすとんと落ちるような水分と繊維の多い便がいいのだそうです。いろいろと観察してみることが大切です。
ヨーグルトを毎日とるのもいいでしょう。脂肪が気になる人は低脂肪のものがあります。
プロバイオティクスとがんの関係は、『民間療法のウソとホント』の中でも取り上げています。