薄暗い部屋の中で出会った

原稿書きがようやくひと段落したので、見たいと思っていたアートを見に行くことに。
ひとつは千葉県佐倉にある、川村記念美術館に所蔵されているマーク・ロスコの絵。
赤と茶、オレンジと黒、青、さらにグレーなどが入り混じった色が、カンヴァスに塗りこめられている。そして、そのなかにうっすら際立つ赤い枠が大胆にひかれている。
それだけの絵なのだが、見ているうちに引き込まれていく。
ロスコは、こうした色を積み重ねていく作風で評価を得るが、絵をかける高さなどの位置、証明、作品をかける壁の色など、自作の展示にも強いこだわりを持っていた。
川村記念美術館も、ロスコの作品だけを見せるために特別な部屋をつくっている。床もここだけは木製でしかも漆黒、壁の色もかなり濃いグレー、そして証明は45ルクスなので、薄暗い。
この部屋にロスコの作品が7つ展示されている。
そのなかのひとつの作品を見ているだけで、その中に引き込まれ、漂うような感じになっていく。作品の中で、いや部屋の中で、自分自身が浮いているような感じがしてくる。さらに、次に自分が包まれてくる。
こうした効果を狙ったのかもしれない。
ロスコルームの真ん中に平たい大きなソファが置かれているから、そこにちょっと横になってみてもいいだろう。
わたしは座って作品を見ていたが、横にならなくても、十分に楽しめた。
マーク・ロスコは、好きな作家で作品も本やテレビなどをよく知っていたが、やはり実物を見なければわからない。
不安のなかに、横たわる安心。不確かだが、確実にあるもの。
そんな感覚を味わうことができた。忘れられない絵のひとつ。
ちなみに、ロスコルームはイギリス、ニューヨーク、ここ川村記念美術館にしかない。
川村記念美術館には、ほかにも、バーネット・ニューマンの「アンナの光」がある。これは赤、朱といってもいいが、これが一面に塗ってあるだけのもの。左右に白い枠があるが、ほとんどは赤。それがこんどは明るい部屋の壁に一点だけ飾ってある。
ロスコルームだけでなく、作品を飾るために、美術館を構成したとあるから、それが非常に効果的だし、たいへんいい。これほどしっかりしたコンセプトの美術館も珍しいだろう。
レンブラント、ボナール、ルノワール、芦雪、大観、ステラなど、どれもいい作品があった。わたしが行ったときには見ることができなかったが、光琳等伯の作品もある。
美術館には、広大な庭があり、桜がたくさん咲いていた。聞くと、桜とつつじのシーズンは込み合うとのこと。ちょうど桜のシーズンで人は多かったが、美術館はそれほど込んでいなかった。
花見にくる人と美術館にくる人は違うようだ。