リーダー讃

 燕岳    北アルプス裏銀座

北アルプスの燕岳に登ってきた。2763m。富士山、木曽御嶽山と3000m級の山に登ったことがあるが、これははるか昔のこと。10年ほど前に八ヶ岳連峰の編笠山(2524m)を登ったのを最後に、登山はあきらめていた。理由は、下山時の膝の痛みである。それこそ一歩踏み出すだけでもつらい。もう山登り(正確にいえば山下り)はできないと思っていた。
友人に、いまは膝の痛みをカバーするサポーターやタイツがあるから、ためしてみたらどうですかといわれ、近くの日向山(1660m)に誘ってくれた。日向山なら2、3時間で登頂できる。そこで、タイツを履いて、ひざにサポーターを巻いて下山したところ、膝の痛みはほとんどなかった。山を下りて、翌日あたりから太ももに筋肉痛あるが、これはこの筋肉を鍛えていないからで、日ごろのウォーキングだけでは防ぐことはできない。スクワットなどが必要である。
もうひとつ膝の痛みを防げたのは、ストックを使うことにもあった。「ストックを二本使って担架にすることができるくらい強いものですから、体重を十分にストックにかけて、膝はゆっくり下ろす感じで」といわれ、二本のストックを突いて体重をかけ、ゆっくり足を下ろす。体重をストックで分散するのである。どんと足をつけないようにすることが肝心。これで膝を守ることができる。
日向山で少し自信がつき、燕岳を目指すことにした。6時30分から登りはじめる。北アルプスでも急登で有名な登りが続くが、約1時間置きにベンチがあり、しっかり休むことができる。
登るときは、人と話ができるぐらいのゆっくりしたペースで登るのがいいといわれ、仲間と高山植物の話などをしながら登る。
中合戦小屋で昼食をとり、山頂の燕山荘に13時10分に着いた。4時間30分がふつうの行程らしいが、中高年登山者でリーダーをのぞき、全員が初心者だから、この時間で登れればたいしたものといわれる。
リーダーは、燕岳には冬にも毎年登るという人で、ネパールなど海外での登山経験もある。ゆっくりとしたペースと、いちばん体力が消耗しない道を選び、登っていく。すぐに後ろについた人はリーダーの踏み跡をなぞっていくだけで、楽に登れたといっていた。わたしもそうだった。
燕山荘は、泊ってよかった山小屋日本一に選ばれるだけに食事も美味しく、いただいた生ビールは最高だった。ワインや日本酒、持参したラム酒などを飲み、久しぶりに痛飲してしまった。夜が早く、8時には床についたために翌朝も快適だった。
いよいよ下山である。最初のうちは、日向山で覚えたように、膝に負担をかけないように下りていき、具合がよかったが、最後のくだりになると、膝ががくがくしてくる。リーダーが、雨具などの荷物をかついでくれ、できるだけからだを軽くするようにしてくれる。さらに、途中に何度も腰を降ろして休むように指示してくれた。ゆっくり下りることが大切だが、腰を下ろし、リュックも下ろして休むことがよかった。昔山登りを教わったときはリュックを下ろして座って休むのは大休止のときで、小休止のときは立ったまま休めといわれたが、座って休むのが、膝を守る方法だった。
おかげで、膝の痛みのために一歩も前に進まないという状態はなく、太ももの筋肉痛はあるが、快適に山下りができた。
中高年の登山者にずいぶん行き交ったが、適切な指示ができるリーダーがいるかなと思った。単独行は別だが、ふたりで登ってもどちらかがリーダーになる。リーダーは集団の中でいちばん弱い、問題のある人についていくことが重要と指南書には必ずあるが、それが本当にできる人は少ないのではないだろうか。
山が楽しいものであるということを知ってもらうためにも、山をよく知り、また仲間もよく知っているリーダーが非常に重要だと実感した山行だった。
また、山登りをしたくなった。