週刊文春で書けなかったこと

週刊文春の夏の合併号(8月8日発売現在発売中)に「ボケを防ぐ完全食」という記事を寄稿した。認知症を防ぐ一週間のメニューもついているのでぜひお読みになってください。
この記事では、おもに食事のことを中心に書いている。内容は認知症介護研究・研修東京センターの須貝佑一医師にお聞きした。
その取材のときに、運動についても少しお話を聞いたのだが、京都大学から興味深い発表があったよといわれ、さっそく調べてみた。
それは、京都大学の医学研究科人間健康科学系専攻の木下彩栄教授のグループが、アメリカの『The Journal of Biological Chemistry』に発表していた。
疫学といって、ある特定の集団を観察し、病気の原因や予防法を探る方法があるが、アルツハイマー病に関して、運動や食事制限がいいことがわかっている。
木下教授らは、アルツハイマー病になるように遺伝子操作されたマウスに、実際に運動や食事制限をし、その効果を調べたのである。
アルツハイマー病マウスを、
1高脂肪食を与え続けたが、運動をしたもの、
2高脂肪食をやめたが、運動はしなかったもの、
3運動に加え、高脂肪食もやめたもの、
4高脂肪食を与え続けたもの。
と4つのグループに分け、観察した。
まず、水を張ったプールにそれぞれのマウスを泳がせ、プラットホームといわれる丘に行けば、休むことができることを覚えさせる。
2ヶ月半の運動や食事制限をしたあと、再びプールに放つ。
その結果、1のマウスは、アルツハイマー病によって記憶力が衰えているはずなのに、約16秒でプラットホームにたどり着いた。
2の高脂肪食を制限したマウスは約25秒、3の運動と食事制限をしたマウスは約17秒、運動をしなかったし、高脂肪食を続けたマウスは約35秒もかかった。
これは、食事制限より運動のほうが効果があったことを示唆している。
論文では、高脂肪食のままでも運動をしていれば、アルツハイマー病を予防する効果があると結論づけている。
実験では、アルツハイマー病の原因といわれるアミロイドβという物質についても調べている。アルツハイマー病になるとアミロイドβが脳内にたまるが、運動をしたマウスでは、この物質が減っていた。アミロイドβを分解するネプリライシンという酵素の働きがよくなったからではないかと同じ論文で考察している。
現在、ネプリライシンは、アルツハイマー病を治すことができるのではないかと、研究がはじまっている。
薬はまだできていないが、運動をすることは非常に大切である。