山は学校、山は病院

赤岳から阿弥陀岳を 硫黄岳を登る人々
80歳でエベレストに登頂しようと計画している冒険家の三浦雄一郎さんをインタビューしたことがあります。
「山は学校、山は病院」といわれたことがたいへん印象的でした。山を登っていると自然といろいろなことを考えます。いっしょに登った友人もそうだと思いますが、ふとつぶやいた言葉が非常に哲学的だったりします。その言葉を聞いてまた少し考えたりして、わたしも勉強になります。ともに登ることで助け合ったり、我をおさえたりすることもあり、協同作業をしていることを実感します。もちろん自然そのものが教えてくれることもたくさんあり、まさに山は学校です。
一方、山登りはふだんあまり動かすことのない、筋肉を使います。大きく手を伸ばして岩をつかんで登ることもありますし、足を高く上げなければ越えられないところもあります。最近、わたしもストックを使っていますが、ストックを使うと腕の運動になります。
山に登ると、ふだん腰が痛かった人がよくなり、腕が上がらなかった人が上がるようになったりすることはよく聞きます。からだ全体を使うのがいい結果を生むのだと思います。


運動には、無酸素運動有酸素運動があります。100m走、重量挙げなど、瞬間的にからだを動かすときには呼吸をしません。オリンピック競技の中には無酸素運動がかなりあります。陸上でもトラック競技をのぞくと、多くは無酸素運動ではないでしょうか。
一方有酸素運動は、息を吸いながら少し長い時間からだを動かす運動です。専門的にいうと、筋肉の収縮に酸素を必要とする運動という意味です。ウォーキング、ジョギング、ランニング、スイミング、サイクリングなどがその典型ですが、山登りは究極の有酸素運動といえます。呼吸がやや乱れ、ちょっときつい、というぐらいが効果的といわれています。山登りはまさにそれです。


3000m級の山々に登ると、人によっては高山病になります。空気が薄くなるからです。
スポーツ選手が高地トレーニングを行いますが、少し酸素の薄い高地でからだを鍛えるとともに、心肺機能が鍛えるためです。
八ヶ岳にいっしょに登った友人は毎年ネパールに行きます。ネパールのヒマラヤ山脈は8000mを超える山が14、7000mクラスの山が100以上もあります。こういう高所でトレッキングしているのですが、日本に帰ってくると、走ってもまったく疲れないといいます。1ヶ月ぐらいで元に戻ってしまうそうですが、かなりの山道を長い距離上がっても息が切れないそうです。これも心肺機能が高まった証拠です。
高山病にならないようにからだを慣らす必要がありますが、山は心肺能力を高めてくれます。わたしが住んでいるところは高度1000mのところですので、ふだんから高地トレーニングをしているようなものかな。


研究者によると、山登りには、高血圧、糖尿病、睡眠障害、軽いうつ病、自律神経、心身症などに効果があるといいます。
山登りを一定時間以上していると、糖の代謝が促進されたり、インスリンが増加したりします。エネルギーとしてからだに貯えられていた脂肪が使われますので、脂質異常症にも有効です。ダイエットにも効果があります。
大きいのはストレスの発散効果です。山を登ったという達成感や自然に身もこころもゆだねることで、たいへんリラックスができるとともにリフレッシュもできます。軽いうつ病なら治るというのも納得できます。
これが「山が病院」といわれる所以です。


ところで、山登りから帰ってくると、太もものの前が筋肉痛になります。頂上を目指し登っているときは痛みはありません。そして、頂上で休んでいるときにも、筋肉痛は感じません。ところが、下山し、家に帰り着いた翌日、筋肉痛に襲われます。
筋肉の側から見ていくと、登っていくときは筋肉は縮んで力を出しています。下りるときは、筋肉を伸ばしたまま力を入れています。このときの筋肉運動を伸長性筋運動といいますが、この筋肉を伸ばしながら力を入れる運動をすると筋肉痛が起こりやすいのです。登っているときは、短縮性筋運動ですので、筋肉痛はあまり起こりません。
これが山登りをしたあとの筋肉痛の原因です。どうして翌日になってから痛みが出るのかはわかっていないようです。
痛みがあるときは冷やしたほうがいいようです。山から帰って温泉につかってゆっくりからだを休めたいと思いますが、すぐに温かい湯につからず、冷たい水を太もものあたりに当てておくといいでしょう。それからゆっくりお風呂に入ります。
痛みがあるときは冷やす。ただし、冷やし続けてはいけません。痛みのピークを越えたら、今度は温めます。これでずいぶんよくなるはずです。