病気は遺伝するか

遺伝子検査を受けて、乳がんになる可能性が高いことを知り、乳房を切除して乳がんを予防したアメリカの女優がいました。これがきっかけになって、遺伝子検査が話題になっています。前もってかかる病気がわかり、その予防をしようと思うのは間違っていないと思います。
じつは、遺伝子検査をしなくても、家系を調べるだけでこれからかかるかもしれない病気を知ることはできます。
 高血圧は、両親が高血圧の場合、子どもが高血圧になる可能性は約50%、片方の親が高血圧の場合は約30%、ちなみに両親が高血圧でなくても高血圧になる可能性は約20%もあるということです(熊本大学宮尾定信教授らの研究)。高血圧患者は、4000万人いるといわれていますので、ご両親、兄弟で血圧の高い人がいるかいないかを調べるといいでしょう。
もし、あなたの両親に高血圧の人がいれば、高血圧になる可能性が十分にあります。脳卒中心筋梗塞などで亡くなっていれば、その背景には高血圧が必ずありますから、自身の高血圧を疑ってみましょう。
今回は糖尿病と遺伝の話ですが、糖尿病も疑いのある人を含めると2200万人もいるといわています。
糖尿病も、両親が糖尿病の場合、糖尿病の家族がいない人とくらべて糖尿病になりやすいことがわかっています。では、糖尿病は遺伝するのかというと、糖尿病になりやすい体質は遺伝しますが、糖尿病そのものが遺伝するわけではありません。糖尿病になりやすい体質を持った人が、食べすぎ飲みすぎという生活を重ね、定期的に運動もしないで、肥満した結果、糖尿病を発症します。この糖尿病体質ですが、関係している遺伝子が何種類かわかってきました。しかし、この遺伝子が異常になって起こると特定できる例はまれで、ごく軽い遺伝子の異常が多数積み重なって起こるようです。こうした遺伝を専門的には「複合遺伝」といいます。そして、この遺伝的素因も複雑で、糖尿病になりやすい体質にも強弱があるそうです。
ところで、最近わかってきたのは、日本人全体が糖尿病になりやすいという事実です。ここ40年の間に日本人は30〜50倍ときわめて高い割合で糖尿病になっていますが、欧米でも5〜10倍とふえてはいますが、その割合は低いといえます。患者の数を人口比で見ると、わが国の患者数が欧米の患者数の1・5倍から2倍になっています。
調べてみると、いまから50年前の1960年、糖尿病の患者数はわずか20万人でした。それが2010年には1080万人。なんと50倍にふえています(厚生労働省の統計から)。
沖縄クライシスでもふれましたが、欧米人にくらべ日本人は、摂取カロリーが少なく、肥満者も目立たないのに、糖尿病になりやすいのです。穀類を中心した、低カロリー低脂肪の食生活に、日本人の遺伝子も対応してきました。現代のような飽食の時代になり、高脂肪高カロリーを処理できず、糖尿病を発症していると考えられます。
遺伝的な素因が日本人と変わらないはずの日系2世は、日本に住んでいる日本人より2〜3倍も糖尿病になりやすく、アメリカの白人とくらべると数倍以上糖尿病になる人が多いそうです。
食生活に影響される度合いが高いといえるでしょう。アメリカ人と同じような食事をしていると、糖尿病にいっそうなりやすいのです。
糖尿病だけではありません。心筋梗塞脳卒中、がんと関係する脂質異常症、少し前まで高脂血症といわれてきましたが、これも遺伝する可能性が高いといわれています。やせていても脂質異常症になる人は、血縁者に脂質異常の人いることが多いそうです。
両親、叔父叔母、兄弟がどんな病気にかかったことがあるのかを知って、その病気に注意しましょう。もしご両親がなくなっている場合、その死因を知っておきましょう。病気を前もって防ぐことに役立ちます。

遺伝ではありませんが、こどもの虫歯は親の口の中と関係します。
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