素敵な出会いはこうして生まれる

山梨日仏協会の秋のバスツアーに行ってきました。日仏協会は日本全国にあって、日本とフランスの文化交流を目的に、一般の人を対象にいろいろな事業を行っています。友人が山梨日仏協会の理事をしていて、ずっと誘われていました。正直にいいますが、フランスに特別の思いもなく、なんとなく遠慮していたのですが、昨年東京の六本木の国立新美術館に行くというので参加しました。国立新美術館自体に興味があったからです。そのとき国立新美術館ではリヒテンシュタイン美術展が開かれていました。こちらのほうをスーっと見て、美術館をあちこち見ていると、柴田敏雄、辰野登美子の「与えられた形象」展が同時に開催されていました。柴田さんの写真がとてもよかったのです。山肌が崩れないようにしているコンクリートの土止め、堰、ダム、鉄橋などの風景写真なのですが、ふだん何気なく見ているものが、こんなにも変わって美しく見えるのか、目からうろこの写真展でした。下調べをしていたわけでないのですが、さすが国立新美術館らしい展示があるなと感心したのです。
そんな経験をしたものですから、今回も行ってみました。国立新美術館は点描の画家たちという展覧会で、ゴッホ、スーラなどの点描作品からモンドリアン抽象絵画などが紹介されています。個人的にはモンドリアンの絵が好きなので、それなりに満足しました。同時開催の展覧会にはあまり興味がありませんでした。

展覧会のあと、東京日仏会館で昼食をいただいたのですが、わたしの前に座られたご夫婦が素敵でした。奥さんは、山梨の石和の出身でいまも石和に住んでいます。若いころフランスの女性と文通をしていました。最初は英語でやり取りしていたのですが、フランス語のほうが書きやすいのではといったところ、それからはフランス語で手紙がくるようになり、彼女も一生懸命フランス語を勉強して、読み書きができるようになったといいます。文通はいまも続いているそうです。フランス語だけでなく、中国語も勉強しています。勉強家なんですね。そんな関係で日仏協会に入ったようです。一見すると、ふつうのおばあちゃんという感じですが、人はみかけによりません。ご主人も山梨の早川町の出身で、昔の話も聞かせていただきました。
出会い、縁といいますが、もともとわたしはあまり社交的なほうではありません。自分から話すことはないのですが、ちょっと興味がわいたので話しかけたのです。
じつは隣に座った人というと、もうひとりある医師の夏の納涼会で隣に座った人ですが、車いす、介護用のベッドなどのレンタル、高齢者のために住みやすくするための家の改築、さらにデーサービスも行っているという女性です。
この人も一見するという普通の女性です。どこにそんなパワーがあるのかという感じでした。
この歳になると、なんとなく「人もわかる」と思っていますが、そんなことはないんですね。人には沿うてみよ、馬には乗ってみよ、といわれますが、その通り。見かけではわかりません。
出会いというと、何か特殊な状況が必要だと思われますが、隣に座ったというような簡単な状況からはじまります。脳科学者の茂木健一郎さんがいっていますが、何か特別な素敵な出会いがあるに違いないと思っているから、素敵な人と出会うことができないのだそうです。

わたしは、ほぼ毎朝ウォーキングをしていますが、そのときに出会う人に挨拶をしていました。おじいさんですが、こちらをちらっと見るだけで、おはようございます、といいません。挨拶を返してきませんが、目元はやさしく、そのうち大きくうなづくようになりました。
じつはその人は、耳が聞こえなかったのです。それを別に隠していませんでした。そのうち手振りで挨拶をするようになり、足を指して運動のために歩いているんだというようなことを意思表示するようになり、親しくなりました。
そのおじいさんに挨拶をしながら、お互いの笑顔を見ることが日課になり、この人と会いたくてウォーキングを続けています。
こうした何気ない出会いが、人生をじつに豊かにしてくれているな、とこの頃深く感じています。

わたしの出会いの中から生まれた一冊『歯は磨くだけでいいのか』もぜひお読みください。