サルコペニアとは何だ

寝たきりになって2年が過ぎた。格別どこといって悪いところがあるわけではない。日中は、デイサービスに行っている。もちろん、歩いて行けるわけでなく、送迎の車がくると、施設の人と協力して抱き上げ、車に乗せ、送りだしている。
お風呂は施設で入ってくるので、自宅では、おもに食事や排せつなどの介助をしているが、生活はもちろんそれだけではない。
家での食事は、噛むことができなくなっているので、流動食をつくって食べさせている。排せつは、トイレに自力ではいけないのでおむつをつけている。
話すこと自体がおっくうになってきているのか、会話もあまり成り立たなくなっているが、できるだけ積極的に話しかけるようにしている。身のまわりにも十分注意を払い、気をつかっている。
これは、90歳の母親を介護しているのがわたしの友人の話である。
彼女は、公的な仕事をもっている。それを知っているケアマネジャーがその仕事が続けられるように、介護支援の内容もかなり充実させている。
2世帯住宅に住んでいるが、母親も父親が元気なうちはふたりで生活をしていたが、4年前に父親が亡くなり、それでもひとりで生活をしていた。父の死後、心臓の具合が悪くなり、ジギタリスを服用していた。
その副作用と思われるが一時期腎臓が悪くなり、入院をした。治療の結果、腎臓の状態は元に戻り、心臓の心配もなくなった。しかし、この3週間の入院のあと、体力が急激に落ち、寝たきりの状態になったのである。
母親は、元気なころから、買い物などで外出しても帰るときはほとんどタクシーを使っていたという。歩くだけでなく、からだを動かすことが嫌いで、乳製品もあまり飲まなかったという。
家族がいろいろいっても、いうことは聞かず、かえっていうほうも面倒になり、放っておくというか、争いになるのが嫌で、本人の思い通りにさせていた。バギーのような買い物かごのついた歩行補助具を購入したが、一度も使わなかった。
この運動嫌いが寝たきりの遠因となった。
誰もが寝たきりだけにはなりたくないと思っているだろう。介護経験のある人ならなおさらだ。
 寝たきりになってしまうと、外出も思うままにならないから、行きたいところに行けないし、トイレで用をたすこともできない。外に出る楽しみ、からだを動かす自由、それがまったく奪われてしまう。
この寝たきりの原因といえば、脳卒中の後遺症を思い浮かべる。確かに、脳卒中の後遺症から、寝たきりになる人は多い。少々古くなるが、田中角栄氏、小渕恵三氏、ダイエー中内功氏、映画監督の大島渚氏などだ。もちろん、みな寝たきりになるわけではない。長嶋茂雄氏もサッカー監督のイビチャ・オシム氏も脳卒中で倒れたが、直後の治療が的確だと後遺症はほとんど残らないし、リハビリをきちんとすることで寝たきりにならずにすむ。
現在、脳卒中が原因ではない、寝たきりが医学界で問題になっている。
冒頭でも紹介した友人の母親の例がそれだ。
それは、「歳をとること」で起こる。つまり、加齢という誰もが防ぐことのできないものがつくりだす寝たきりなのである。
この病気がサルコペニアだ。