もうひとつの森の中から引っ越しです

引っ越しは、じつは何度も経験しています。編集プロダクションをたたみ、個人事務所を開設した年は、自宅の引っ越しを含め、3回も引っ越しました。そのとき、事務机をはじめ、仕事関係の資料など、ほとんど処分しました。自宅の移転のときは、もともとの家がそれほど大きくなかったので移転先にほとんど持っていくことができましたが、関係していた雑誌などはだいぶ処分しました。
それから、フリーでしばらく働きましたが、新しい健康雑誌の創刊を依頼され、没頭することになります。
その雑誌が廃刊になり、再びフリーになるのですが、そのころから医療ジャーナリストとして仕事をふやしていきました。
子どもが大学を卒業したのを機に、東京から現在の場所に引っ越しました。もともと別荘として使っていたので、生活はすぐにでもできますが、東京からもタンスや食器棚、食卓、テーブル、机など、さまざまなものを運びこみました。別荘には、わたしの希望で壁の3面に作り付けの書棚のある書斎がありました。おもえば、これがいけなかった。本をかなり持っていけると思い、雑誌などは処分しましたが、大部分の本を持ってきてしまったのです。
静かな森の中で、好きな本に囲まれて、仕事をするのはじつに快適でした。
こうした快適な生活をずっとつづけられると思っていましたが、前回のブログで述べたように、築20年の住まいは傷みが見えてきました。建てなおすことができない。そこで、思い切って断捨離という意味合いも含め、移転を決意しました。
断捨離の断とは、「入ってくる要らないものを絶つ」、捨は「家にずっとあるいらないものを捨てる」、離は「ものへの執着から離れる」というヨーガの行法とのことだそうです。
ものを整理するという意味では、この言葉にすべてが込められているような気もしますが、ものには執着ならぬ愛着があります。わたしの場合、それは本でした。銀行員から編集者に転職したのも、本好きが高じたからです。本をつくる仕事につきたくて編集者になったのですが、編集者としてはおもに雑誌畑を歩きました。創刊にかかわった雑誌は7誌になりますが、いまでも発行されているものもあります。医療健康情報を扱うものが多く、医療ジャーナリストになれたのも、そのときに貯えた知識がベースになっています。このあたりは『民間療法のウソとホント』(文春新書)にくわしく書きました。
今回は、青春時代から集めてきた本たちとも別れなければなりません。いままでのようにすべての本がすべておさまるような書斎はありません。
古本屋さんにきてもらい、約3000冊の本を持っていってもらいました。結紮される本を見、これはとっておきたい、これはあのとき読んだな、まだ読んでいない本なのに、といろいろ思いました。
本が好きという人なら、おわかりになると思いますが、購入した本はすべて読んでいるわけではありません。いつか時間ができたら読もうと思い、買った本です。いずれは読もうと思っていた本とも別れました。もちろん、すべての本を処分したわけではありません。別れがたい本、必要な本を持っていきます。
古本屋さんにきてもらったのは、捨てるのではなく、誰かがわたしの持っていた本を読んでくれることを願っているからです。どこかで、再びわたしの本が役に立ちますように。