わたくしごとですが。

「お父さんがひとりになってしまって」


昨年のはじめに、結婚することになった息子のお嫁さんご家族と東京で会いました。
向こうのお父さんは、コンテナ船の船長さんで物静か、あまり語らない人でした。
話はもっぱらお母さんがしていました。


中学・高校をともに過ごした友人の父親が船長で、船が帰国すると、函館や佐世保など、東京からはなれたところに入るときは、必ず休みをとって、父親を迎えにいっていました。
彼の父親に会ったことが何度かありますがずいぶん怖そうな人だったという印象があります。
わたしの父も、明治の生まれで怖くて、同じような感じでしたので、父親というのはこういうものと思っていました。
ところが、同年代でも、若い父親もいて、子どもたちと仲よさそうにしているのも見て、その友人と「あれは父親じゃないね」と話した記憶があります。


ところで、お嫁さん家族にお会いして2週間の後、お父さんが船で倒れ、亡くなられました。
どこも悪いところもないといわれていたのに、船長の仕事から定年になって解放され、補助のような仕事をされていたと聞きます。
それでも、船の操舵輪を握っていたとき、発作に襲われました。
洋上ですから、救急のへりを依頼したのですが、間に合わなかったようです。


ご遺体を荼毘に付し、葬儀が終わったときに、お母さんに、
「お父さんといわれる人がひとりになってしまった」
とわたしのことをいわれたのです。


まだ息子たちも結婚もしていなかったし、すごく親しくしていたわけではないのですが、葬儀では親戚のように厚遇され、お父さんの友人からも、肩をガシっとつかまれ、「結婚式でいっしょに酒を飲みたかった」といわれ、思わず涙が出てきました。
その後息子も結婚しました。


わたしの子どもは、長男長女のふたりですが、さらに長男のお嫁さん、長女のお婿さん、そしてお嫁さんの妹さんと子どもがふえました。全部で5人の子持ちです。


いっそうがんばらねば、という感じですね。
ひとりのお父さんとして。


向こうのお父さんの一周忌がまもなくやってきます。