息があがるのはいいこと

久しぶりにライターとして、参加した本が出版される。

という本である(三笠書房王様文庫より3月30日発売)。
以前週刊誌の記事で取材したことがある信州大学の能勢教授の本ということで、引き受けた。
能勢教授は、「インターバル速歩」を提唱している。


週刊誌では、サルコペニアを取り上げたのだが、早くからサルコペニアという病気の存在を認め、一般の人に警告を発していた名古屋大学医学部の飛田哲朗医師と、その予防法を紹介していた能勢教授に取材した。
サルコペニアについては、かつて紹介したことがあるが、年齢とともに筋力が衰えていく病気である。
能勢教授は、筋力の衰えを「川を流れていくようなものです。何もしないで流れに身を任せていれば、その先に滝つぼが見えるでしょう。滝つぼにはまってしまうのが、寝たきりの状態というわけです」という。
サルコペニアを防ぐいちばん簡単な方法はからだを動かす。からだを動かす、いちばんいい方法は歩くこと。


最近、よく歩いている人を見かける。
10年、ひと昔といわれるが、こちらに越してきた10年前に歩いていると、車に乗ってやってきた知り合いから話しかけられた。
「犬の散歩でもないのに、よく歩いているね」
確かに、犬がいれば散歩は欠かせないから、当然飼い主も歩くことになる。
犬でも連れているなら歩くこともわかるが、というわけだ。
そのころにくらべると、歩いている人をよく見かけるようになった。
いま歩いていても、犬を連れていないのに、という人はいないだろう。


わたしは、東京にいたころからウォーキングを日課にしていた。
かれこれ30年近くウォーキングをしている。
山歩きをはじめたときに、山を十分に楽しむためには、日ごろからのトレーニングが必要と思いはじめた。
ウォーキングについては、健康雑誌の編集をしていたので、その効果はよく知っていた。



運動生理学という学問がある。
からだを動かすことで起こる身体の機能や構造の変化について研究している。
運動生理学で、
「その人の“最大体力(最大酸素摂取量)”の70%以上の運動を1日に30分、週に3回以上、5ヶ月から6カ月行えば、その人の体力は10%以上向上する」
という大原則がある。セントラルドクマという。
この原則は、わたしが駆け出しの編集者だったころ、運動生理学の大家といわれた先生から聞いたことがある。
もう40年以上前の話だ。


そもそも最大体力とは何だ、その70%はどうすればわかるのか、これが疑問である。
最大体力とは、もうこれ以上はからだを動かすのは無理というような状況で、使っている体力のこと。
その70%ぐらいの運動をしなさいという意味だ。
からだを動かしていて、だいたい70%はこれぐらいかなという感じでわかるという。
ウォーキングなど、からだを動かすことが習慣になっていれば、この最大体力もその70%もわかるはず。
山登りをしていたときに、頂上付近にきて、最後の急坂といわれるところを登っていると、最大体力を使っていると実感する。
東京都でいちばん高い雲取山に登ったとき、いっしょに子どもたちが、
「心臓が口から飛び出しそう」
といっていたが、このときおそらく最大体力を使っていただろう。
しかし、最大体力を使うことはめったにないし、スポーツ選手ではないので日常生活ではないと思ったほうがいい。
最大体力がわからないから、その70%というのもわからないというのもわかる。

そこでいちばん簡単な方法がある。
息が上がるという状態である。
息が上がるような状態になるまで運動をすればいい。
完全に息が上がらなくても、「はあ、はあ」いうぐらいの運動が70%に相当する。
息が「はあ、はあ」と上がるくらいの運動をすることだ。

このくらいの運動、ウォーキングをしなければ意味がないのだ。
(この項続く)