自分の最期を思うとき

サポートやまなしし 市民講演会を聴きに行った。
テーマは、「大切な人を看取る」ということ。


演者は、牛山京子氏(歯科衛生士)、大熊由紀子氏。
牛山京子氏は、広島大学歯学部歯学科非常勤講師。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会評議員などをつとめる口腔ケアの専門家。
大熊由紀子氏は、国際医療福祉大学大学院教授。朝日新聞で女性初の論説委員。医療・福祉・科学分野の社説を担当。2001年大阪大学大学院人間科学研究科教授を経て現職。
演者がそれぞれの家族を看取った経験をもとに、何が大切かをわかりやすく語ってくれた。


牛山氏は、両親が元気なときはそれぞれの死も遠いものと思っていたので、死をあまり意識したことがなかったし、意識したくないという思いがあったと正直に語る。
お母さんが脳血管障害による認知症になり、何回か転倒などもしたが、自宅でお父さんといっしょに介護をしてきた。
お父さんが難病といわれる全身の血管に炎症が起こる病気で亡くなると、お母さんの状態も悪くなり、自宅での介護もむずかしくなり、入院し、亡くなる。
その間、しみじみと両親がどんな人たちだったのかを知ることになる。
自分の親について、わかっているつもりだが、介護という身近な関係を通して、改めてその人となりと知っていく。
これは、お互いに認め合う、いい関係がはぐくまれていくという様子をうかがうことができる。
こうしたお互いに認め合う関係は、その人生の最期にあってたいへん大切なことと実感した。


専門である口腔ケアは、食べものの入り口であり、話すという人として存在を明らかにする『口』を大切にすることだ。口をきれいにすることは、生きることの基本ともいえる。
自分もふだんから口腔ケアをしっかり行い、生きている間は、口から食べるようにしたい。
そんな思いを強く抱いた。


大熊氏は、新聞記者時代から日本では「寝たきり老人」がいるが、どこの国でも寝たきり老人がいるわけではなく、とくに北欧では寝たきり老人がいないと知り、取材をしてきた。
日本の寝たきり老人の写真を見せると、デンマークでは日本のように寝たきりにさせないでできるだけ動くようにさせていること、起床したらパジャマではなく、ふだんの洋服を着てもらっていることなどを指摘された。
パジャマと似たようなトレーニングウエアをきて、病棟内をうろうろすることはない。
ベッドにいるときも、目が覚めたら、寝巻を脱ぎ、ふだんの恰好をする。これは寝たまま、寝たきりにしない、ひとつの方法だろう。
車いすで外出するとき、みなおしゃれをして出ていく。女性ならお化粧もする。男性も身ぎれいにする。こんなわずかな工夫かもしれないが、社会との接点をもつことにつながるような気がする。


日本では、寝たきりだけではなく、寝かせきりの老人をつくっていないだろうか。
高齢者に限らないが、『居場所がある』『味方がいる』『誇りを持つ(もしくは持たせる)』
これが重要だという。
「日本人は長命であるが、長寿ではない」という言葉にうなづかざるを得ない。


日本より先に高齢化社会になったデンマークでは、介護状態になった人の
「人生の継続性、自己資源(残存能力)の活用、自己決定の尊重」
が重要とし、できるだけ自分が暮らしてきた場所で、サポートしてくれる人の手を借り、自分でできることはできるだけして、自分らしく、自分の納得のいく最後を迎える。これが基本となっているようだ。
自分にできることはやること、これが大切。人任せにしてしまうことは自己決定権の喪失につながると思う。もちろん、年齢とともにできないこともふえてくる。
だから、一方で自立することは一人で抱え込むことではなくて、依存するところを増やすことだといった、脳性まひの小児科医の熊谷医師の言葉を思い出す。
これができるかどうか。



大熊氏のお母さんは、まさにこの通りのことを行う。手助けは訪問看護師、訪問歯科医、歯科衛生士、かかりつけの薬剤師、ヘルパーなど。
末期がんと診断されていたが、最期は老衰で亡くなる。
若くして、未亡人となり、懸命に働き、子育てをしてきただけに、本人の意思がしっかりしていて、それを子どもたちも受け止めてきた。
これがいい最期を迎えられた大きな要因に違いない。
葬儀には、ご近所の花屋さん、レストランのご主人など、多数の人が参列してくれたという。近所づきあいもしっかりされ、愛されていたようだ。

認知症に関して、徘徊、暴言など、いろいろなことがいわれているが、個々に思いがあり、それが達成されないときに起こる行動と。
認知症になっても、まったく『人』が失われたわけではなく、『人』の部分に気を配っていけば、解決できることが多いという。
だから、できるだけ住み慣れた場所で介護を行うことが重要で、病院に入院させても状態はよくならないのでは、ということも納得する。
『自宅で死にたい』という本を書いたが、なかで介護についてはふれていないので、介護について書きたい。