いちばん高いリスクとは

高齢者が交通事故を起こす例がふえてきています。
高速道路を逆走する、アクセルとブレーキを踏み間違えるといった事故で、亡くなる人も出てきて、社会問題になってきています。
これも、高齢社会になって、高齢者の数がふえてきたことが大きな要因でしょう。
わが北杜市でも、65歳以上の高齢者の割合が36・5%です。3人にひとりは高齢者ですから、高齢者が交通事故を起こす可能性は高くなります。
これからふえていくことは間違いがないでしょう。



高齢者に限らないのですが、「わたしは事故を起こさない」と誰もが思っているのです。
事故を起こすかもしれない、と思っていたら、運転も慎重になるでしょうが、みなそうは思っていません。
これが問題のひとつです。



リスク、これから起こると思われる問題をどの程度把握しているでしょうか。
病気をリスクとしてとらえ、それをどのように回避していくかをテーマにしている医師に取材したことがあります(寺本研一『頭のいい人の「病気にならない体」のつくり方』三笠書房)。
「先生ご自身の、いちばんのリスクは何ですか」
と聞くと、
「交通事故かな」
と答えられました。
病気がいちばんでなく、交通事故がいちばんであることに「なるほど」と思いました。
都会に暮らしていて、自分も車を運転するとなると交通事故を起こす可能性は高いものになるでしょう。



ところで、交通事故の中で死亡事故は、75歳以上のドライバーによって起こされたものが2006年には7・4%だったのが、2015年には12・8%まで増加しています。
高齢者が増えるとともに、認知症などの病気に判断力が衰えてきた人が運転をして事故を起こすようになってきているのです。



どんな人が事故を起こしやすいか。
交通ルールを守れているか、運転技術の衰えを自覚しているか、まず、このふたつが問題となります。
じつは、現在の運転免許の更新のときに、認知機能検査が行われているのですが、これは時計の文字盤を描き、さらにその文字盤に指定された時刻を記入していくというようなもので、これは記憶力、判断力を調べるもので、運転の技術とは相関しないのでは、ともいわれています。
運転は、からだで覚えているものですが、仮にペーパーテストが満点でも運転がうまくない人はいますし、その反対もあります。



高齢者で衰えていくのは記憶力があげられますが、運転技術で問題となるのは注意力だそうです。
運転に集中する『焦点的注意』、次にある一定時間運転を続ける『持続的注意』、運転をするとき、四方八方に注意を分散させる『分散的注意』、たとえ周囲が騒がしくても運転に夢中になる『選択的注意』。
加齢とともに、注意を分散させる、周囲の騒音などに惑わされないなどの注意力が衰えてきます。
また、突発的な出来事に反応できなくなります。
子どもが飛び出してきたときに、さっとブレーキを踏むことができますか。
駐車場で駐車カードを取ろうとして身を少し乗り出したとき、
ブレーキペダルから足をはなしてしまったという経験はありませんか。
一度にふたつのことをしようとして、思わず間違えたりしませんか。



認知症の中でアルツハイマー病との関連がある交通事故は、信号無視と一時停止違反だそうです。
レビー小体型認知症という認知症がありますが、道路がゆがんで見えたり、幻覚といいますが、いろいろなものが大きく見えたり小さく見えたりします。
センターラインを越えたりすることもあるようです。


こんなことがあったら要注意
1運転中に行き先を忘れる、道に迷う
2駐車、幅寄せが苦手
3車に小さな傷が多い、物損事故、追突事故を起こしたことがある
4アクセルとブレーキを踏み間違える
5車間距離が短い、センターラインを越える
6交通ルールを無視する、スピードを出す、信号無視
7一時停止を見逃す
8運転の調子がいいとき、悪いときの差が激しい



自身ではもちろんですが、同乗者にチェックしてもらいましょう。
できれば、常日頃から運転をしている人にチェックしてもらうことをお勧めします。
わたしの友人に、息子さんがF1のメカニックをしている人がいます。
その息子さんが友人の運転する車に乗ったとき、
「お父さん、すぐに免許を返納したほうがいいよ」といわれたそうです。
確かに、彼の運転する車に乗っていると「見切り運転が多い」気がします。
このくらいの確認で大丈夫、相手も見ているはずだから、という運転が多いのです。
これでは、事故を起こす可能性が高まります。



自分も含め、運転には注意をしなければ、と思いました。
文藝春秋クリニック『認知症[予防&介護]のすべて』の記事の一部を参照させていただきました)