あなたの歩幅はどのくらい

認知症ほど一般的になった病気はないでしょう。
ニュースを見ていても、1日に1度は認知症に関係する事柄が紹介されます。病気の中でいまもっとも注目されているといえます。
その理由は、高齢者がふえてきたからです。
FM八ヶ岳でわたしの聞き手になっていただいているS女史から、認知症がこんなに話題になるのはどうしてかしらと聞かれましたが、それは高齢者でもとても長生きする人がふえたからです。


認知症の発症を年齢別に調べると、


・65~69歳   2.9%
・70~74歳   4.1%
・75~79歳  13.6%
・80~84歳  21.8%
・85~89歳  41.4%
・90~94歳  61.0%
・95歳以上  79.5%
とある統計にありました。


わたしたちが子どものころ、いまからだいぶ昔ですが、お年寄りといっていた人の年齢は60歳代がほとんどで70歳代はまれでした。じつはこのくらいの年齢では認知症の人がまだまだ少ないのです。
ですから、昔は、わたしたちが子どものころは認知症があまり話題にならなかったのですね。
いまや90歳代、100歳以上の人もたくさんいます。


わたしたちもひょっとするとそのくらいの年齢まで長生きしてしまうかもしれません。
となると、心配なのは認知症です。


東京都健康長寿医療センターの谷口優研究員(医学博士)らは、いまから13年前、新潟県群馬県の二つの地域で1149人の70歳以上の高齢者を対象に自治体の協力を得て、身体機能と認知機能の関係を調べました。
もともと認知機能が低い人、転居してしまった人、亡くなった人を除いて、最終的には666人の高齢者を平均して2・7年間にわたって調査したのです。
身体機能のチェックは、握力、片足立ち、歩いたときの歩幅など。認知機能のチェックは記憶力、計算力、言語能力、図形などを認識する能力を調べました。
すると、歩幅が「広い」「ふつう」「狭い」で調べてみると、歩幅の広い人ほど認知機能が衰えていませんでした。歩幅が狭い人は、広い人に比べると、3・4倍も認知機能の低下が起こりやすかったのです。
歩幅は筋肉量など身体能力と関係すると思われがちですが、歩幅が広い人は筋肉量が多く、歩幅の狭い人は筋肉量が少ないとはいえません。
歩幅は、脳の神経系の問題だというのです。歩幅の狭い人は、足を前に出そうとするシグナルが脳との間でうまく伝わっていないと考えられるのだそうです。その結果、歩幅が狭くなります。歩幅を広くしようとすると、転んでしまうのではないか、と心配になりますから。


じつは何らかの脳の異変があると、よちよち歩きになります。


認知症の中でいちばん多いアルツハイマー認知症では、脳の前頭葉や運動野が委縮してくるといいます。歩くことがおぼつかなくなってきます。転ぶことが多くなるのも、認知症が進んでいる可能性があります。
アルツハイマー認知症が進んでくると、歩幅が小さくなり、小刻みになって、よちよち歩きになるのです。
ちなみに認知症も末期になると、寝たきりになってしまいます。


この研究では、被験者に11m歩いてもらい、歩き始めと終わりのそれぞれ3mを除いた歩幅を測定したそうです。歩き始めの歩幅は狭くなることが多く、また家の中では家具やドアなどが邪魔をして歩幅が狭くなってしまいます。11mぐらい歩くことができる場所で調べたようです。

歩幅は、性別、年齢、身長などによって異なりますが、男性の場合70・6cm以上が広い人、61・9〜70・6cmまでふつう、61・9cm以下が狭い人。女性は65・1以上が広い人、58・2〜65・1までがふつう、58・2以下が狭い人と分けています。


では、歩幅を広げて歩けば認知症の予防になるか、というと、この研究では確かめられていません。
しかし、わたしが考えるに、歩幅を広げて歩くと、当然運動量が多くなります。それだけ早く歩くことになります。
いわゆる早歩きになります。

以前お話ししたと思いますが、早歩きは認知症の予防になります。
その理由はミトコンドリアにあります。ミトコンドリアは細胞の中にあって、細胞が活動するときのエネルギーを作り出しています。最近わかってきたのはエネルギーを作り出しているだけでなく、細胞の炎症を抑える働きもあるのです。アルツハイマー認知症は、脳の中にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することで起こるのではないかといわれています。
このたんぱく質が蓄積することで炎症が起こり、脳細胞が少しずつ減っていくのです。
ミトコンドリアはエネルギーを作り出しているのですが、エネルギーを使いきると新たなミトコンドリアが生まれるといわれています。
新たなミトコンドリアほど、炎症を抑える効果が強いのです。
ミトコンドリアの発生を促すためにも、少し激しい運動、早歩きでいいのですが、使いきるようにしましょう。