ウォーキングは「仕事」です

わずか4泊5日の入院であっても、からだを動かすことがいかに大切か、しみじみわかった。
しかし、改めて思うに病院の中でからだを動かすといっても、まず場所がない。リハビリ室を使う方法もあるらしいが、これは担当医だけでなく、リハビリ医の承諾が必要だ。
入院中、同室の患者さんのところに、看護師さんや理学療法士さんがきて、「少しからだを動かしてみましょう」といって連れ出していたが、病棟の廊下を歩く程度で、運動となるとなかなかむずかしい。
以前取材した外科医は、「動ける患者さんは、手術後できるだけ早く外出をしてもらう」といっていたが、状態によってはベッドで寝ているより外出したほうが回復が早いのだろう。しかし、そういう指示をするお医者さんはまだまだ少数派のような気がする。
入院中は、患者の安心、安全のために、動かないほうがいい、と思っている医療関係者のほうが多いような気がする。
病院では、施設を含め、からだを動かすには適した場所ではないようだ。


ところで、これは病院だけの問題ではない。
たとえば、会社の中はどうだろうか。
昼休みにウォーキングやジョギングをしたとしよう。帰ってきて社内にシャワールームがあるわけがなく、汗だくで仕事を続けることはできない。そもそもそんなに時間はとれないかもしれない。
社内でもできる運動としては、ダンベル運動やストレッチ体操などがあるが、やる人は少ない。ラジオ体操をする会社はあるが。
職場をはなれ、通勤途上や自宅近くで、ジムに通うにしても、通勤時間が長く(平均して1時間42分東京都首都圏の場合・NHKの国民生活時間調査2014年版より)、これもむずかしい。ビジネスマンが、からだを動かすことを習慣にするのは、意外とハードルが高い。


出版業界では、早くからフレックスタイムを実施する会社もあり、編集の場合には、出社時間、退社時間もあまり厳密ではなかった。仕事が佳境に入れば、徹夜に近い状態が続くが、ものすごく忙しいときは別にして、時間がとれる。わたしは出勤前によくウォーキングをしていた。
社内でも移動にエレベーターを使わず、階段を利用している人もいた。その人の編集部は7階にあったので、これはかなりの運動になっただろう。
通常乗り降りする駅よりひとつ手前の駅で降り、歩くようにしている人もいた。
これも、時間が自由になるからかもしれない。
業界でも、常に忙しい分野(週刊誌など)もあるから、みなそうできるわけではないが、自分の時間がとれかどうかが重要だ。


わたしにとってウォーキングは習慣になっていて、まったく苦はない。
ところが、よくいっしょに歩くかみさんにとっては、「ウォーキングはひと仕事」なのだそうだ。「よし、行くぞ」と自分に掛け声のひとつでもかけたいくらいで、ウォーキングをすませると「ようやくひと仕事が終わった」と思うというのである。
そういわれて、わたしは少し驚いた。
わたしはウォーキングをひと仕事とはまったく思っていない。それは習慣になっているからだ。むしろ、からだを動かさないほうが調子が悪くなるように気がする。


ところで本題だが、ウォーキングなどを習慣にするために、どうすれないいのか。
意外と「仕事」と思うのはいいかもしれないと思った。
この「仕事」をしなければならない毎日が送れない、この「仕事」をすまさなければ次に進めない、この「仕事」を終えるなどなど、わたしたちも「仕事」といえば、いくつの状況を思い浮かべることができる。
まず、それをやり遂げることが重要だ。


しかし、ウォーキングもなんとなく義務になるようで、ちょっとねとも思ってしまう。


楽しいと思うのがいちばん。
外の空気にふれ、季節の変化を肌で感じたり、花々をめでたり。いま住まいしているところなら、八ヶ岳南アルプスの山並みの移ろいを感じたりするのは、実に楽しい。とくにいまの季節はその変貌がうれしい。
からだが変わるという実感もある。たとえば、やせる。ウォーキングでやせるのはむずかしいかもしれない。わたしの場合は太らないと思っている。入院で少しやせたが、その状態を保っている。これもウォーキングのおかげだろう。
着ているものが薄くなる季節に、スマートなからだに思わず微笑んでしまう。
ウォーキングコースもいくつもあるが、それぞれ目標がある。
穴地蔵という、小さな穴の中に鎮座しているお地蔵さんがある。病気平癒の願いを聞いてくれるというで、たまにお参りをするが、手術を受ける前に行ったので、先日お礼参りに行った。
神仏だけでなく、森羅万象に祈るという行為は、何かすがすがしい。これもウォーキングの楽しみである。
そんな気持ちで毎日ウォーキングができると、自然と習慣になるのでは。


*『週刊新潮』(現在発売中)に、姿勢について書きました。肩こりや腰痛などに悩んでいる人は一度姿勢をチェックしてみてください。こちらもぜひお読みください。