訪問看護師さんがいるということ

在宅医療とは、どういう医療のことをいうのだろう。
じつは、わたしも訪問医療の、いいかえぐらいのことだと思っていた。
専門の医師に聞くと、
「在宅医療とは、訪問診療をする医師、看護師、ケアマネジャーを含む介護スタッフ、訪問薬剤師などがチームを組んで取り組む診療」
とのこと。
医師だけでなく、看護師、介護スタッフも重要なメンバーで、医師だけで行うものではないという。
この医師だけで行うものではないということに注目したい。


在宅医療を受ける手続きをしておけば、場合によっては医師が出向かず、看護師が対応して、その報告を受けた医師から応じられた手配ができるということだ。
救急の場合には、医師が出向くことが当然だが、それほど急を要していないと思われるとき、看護師に連絡をし、きてもらうこともできる。
これは、患者や家族にとっては大変ありがたい。
「お医者さんを呼ぶまではないんじゃないか」
というときに、看護師がきてくれる。
また、患者や家族のほうからすると医師は忙しいからと遠慮が働く。
事実、在宅医療を専門に行っている医師は別だが、日常の診察のほかに在宅医療を行っている場合、診察中のためにすぐに出られないこともあるからだ。
そこで、医師以外にも専門家が家にきてくれ、相談にのってくれるというのは、じつに重要なサービスと思う。
もちろん、在宅医療の手続きを受けているという前提の話である。


ここで、もう一度在宅医療について、おさらいをしておく。
何らかの理由で、病院やクリニックに通えなくなった。たとえば、認知症が進み、通院ができなくなった。がんが進行して、通院がむずかしい。脳梗塞によってからだが不自由になったなどが、在宅医療の対象となる。
また、高齢になって通院ができなくなったが、最期は自宅で迎えたいと願っている人も、在宅医療の対象となる。
通院できなくなったというのが原則である。


ところで、在宅医療を受ければ、スタッフが何でもやってくれるというわけではない。
わたしの友人で、すい臓がんになり、体力も衰え、通院がむずかしくなった。病院に入院したとしても、すでに治療法はなく、痛みなどをやわらげることが主体の療養となるといわれ、在宅医療を選んだ。
自宅で友人を診ると決意した奥さんが、近くで在宅医療を行っている医師に声をかけ、きてもらったが、なかなか意思疎通がうまくいかず、いくつかのクリニックにあたり、納得できる医師を選び、自宅での治療がはじまった。
奥さんがしなければならないことはたくさんあった。
食事の世話はもちろんだが、からだを動かすこともできなくなってくれば、排せつも自力ではできなくなる。排せつのさせ方を学び、奥さんが友人にしてあげていた。
ほかにもいろいろなことがあった。くわしくは『自宅で死にたい』で紹介した。本人の願いを聞き入れるために、家族も努力をした。
結果、友人は穏やかに自宅で最期を迎え、旅立っていった。
家族を在宅医療でみとった人が、自分のときはどうするかと問われ、すぐに返事ができなかったということも聞く。
在宅医療は、単純にすばらしいとはいえないことも知っておきたい。


在宅医療では、医師と、月に何回というように定期的に自宅で診てもらうという契約をする。
そして、在宅医療がはじまる日に、医師、看護師、介護スタッフが集まり、医療情報を共有する。患者が複数の病気を持っていた場合、それぞれの病気の現況、進行状況を確認する。
このときに、患者の側では特別に用意するものはないという。
もちろん、わかっている範囲で伝えることが大切だが、患者のほうで何か用意しなければ、在宅医療がはじまらないというわけではない。


在宅医療で中心となるのは、患者である。
患者が何を望み、どんな希望を抱いているか、何を不満に思っているか、何をしてほしいかを伝える。
患者の望みにそのときはすぐに答えられないが、時間を重ねることでだんだんと希望がかなってくるはず。
そのために、医師だけでなく、看護師、介護スタッフが参加している。
病気ということでは、医師は専門の領域だが、患者の生活となると介護スタッフや看護師のほうがよく目が届く。
これが在宅医療のいいところだ。