歯は磨くものではない

80歳まで自前の歯を20本残す、亡くなるまで口から食べる、といったことがよくいわれるようになった。
それだけ歯に関心を持つ人がふえた。
事実、虫歯はだいぶ減ってきている。
歯を失うもうひとつの原因、歯周病はどうだろう。
歯周病は、虫歯と違って痛みがまったくない。
自覚症状もないので、知らず知らずのうちに進行し、歯を失ってしまう人がまだいる。
しかし、歯周病も治療することもできるし、もちろん予防もできる。


虫歯にしても歯周病にしても、治療ができる。
歯は老化によって自然と失われてしまうというものではない。
もちろん、年齢とともに、歯がなくなるのは当然のことではない。
そして、予防という点からすると、からだの中のほかの臓器と比べて、歯は確実に「自分で守れる」ものと専門家はいう。


虫歯も歯周病も、原因は細菌である。
細菌ならば、抗菌剤を使えば、除菌できる。
厄介なのは、口の中はてのひらなどと違って、歯と歯の間、歯と歯茎の間など、細菌が入り込みやすく、取り除きにくい場所がたくさんある。
しかも、飲食するたびに、口の中に細菌は入ってくる。


また、もともと口の中に居ついている細菌もある。
ここで注意しておきたいのは、細菌のすべてが悪いわけではない。
からだにいい細菌もあるし、悪い細菌もある。また、いいとも悪いともどっちつかず細菌もいる。日和見菌というが、それが悪さを働く場合もある。
つまり、細菌がいるから、それらをすべて除菌してしまえばいいというわけにはいかない。
細菌のすべてを殺してしまう、つまり口の中の細菌のバランスを崩してしまうと、悪い菌をはびこらすことにもなり、かえって体にとってよくない状況を作り出すことになる。
理想をいえば、悪い菌を減らし、いい菌をふやすことだ。
しかし、これがなかなかむずかしい。


からだを洗う、顔を洗うというが、歯を洗うとはいわない。
なぜ洗うとはいわないのだろうか。
歯は磨く。
歯は白くなければいけない。
歯を白く保つには、磨かなければならないと思い込んでいないだろうか。
じつは、歯こそ洗うものなのではないだろうか。
口の中の汚れを取り、細菌を少なくすることがなにより重要だ。
白いことより、歯についている細菌が少ないほうが、歯は守られている。


くり返すが、虫歯や歯周病の原因が細菌であることがわかっている。
歯を守るとは、細菌から歯を守る、歯についている悪玉菌を除菌する、といったほうがいい。
歯磨きというと、歯磨き剤でごしごし歯をこすったほうがいいと、誰もが思っている。これは間違い。
歯の悪玉細菌を除菌すること。
問題は、歯であることを思い出してほしい。
歯にくっついてくる悪玉細菌をなくすこと。
そのためには、歯を一本一本洗うのだ。
これが肝心だ。


歯ブラシを使うとき、丁寧に歯の隅々までしっかりきれいにする。
そして、口腔洗浄剤で、除菌をし、さらに、フッ素が含まれている歯磨き剤で、歯をコーティングする。
毎食後しなくても、これを就寝前にしっかりやればいい。
歯を隅々まで、除菌するには、洗面所で歯磨きをしてはいけない。
リビングルームで、ソファなどに座り、ゆっくり時間をかけてする。
歯磨き剤を使うときは、洗面所に行くが、それまではソファなどで、じっくりゆっくり丁寧に歯の細菌をなくすことを心掛ける。

磨くではなく、歯を一本一本洗うこと。これを頭に入れてほしい。
ちなみに英語で歯を磨くとは、クリーン、もしくはブラッシングで、ポリッシュではない。