30回噛んで食べるだけでやせられる

よく噛むことの効用はたくさんありますが、ひとくち30回噛みなさいといわれます。
ひとくち30回噛むというのは、どこからはじまったのでしょうか。
イギリスで4期にわたり、首相をつとめたウイリアム・エワート・グラッドストン氏(1809〜1898)がいったようです。グラッドストン氏は84歳のときに首相を解任されます。ヴィクトリ女王と不仲だったことは有名です。
首相を引退後、85歳になったグラッドストン氏に「85歳にもかかわらず、何をしてそんなにお元気なのですか?」と新聞記者が尋ねました。
すると、グラッドストン氏は、「天からわたしたちは32本の歯が与えられた。だからその歯をすべて使うつもりで32回噛むようにしている。子どもたちにもこれをいいきかせ、守らせるようにしている」と答えました。
32回噛むことが健康の秘訣といったのです。30回ではなくて32回がはじまりでした。歯の本数を頭に入れて、噛むことの重要性を語ったのです。
ところで、グラッドストン氏の32回毎回噛むという話を聞いて、実際に食事のときにしっかり噛むことをはじめようと思ったのが、のちによく噛むことを健康運動として広めた、アメリカの大富豪ホ―レス・フレッチャー氏(1849〜1919)です。彼の名前から、このよく噛んで健康を取り戻す運動をフレッチャーイズムといいます。
フレッチャー氏が記事を読んだのは40歳。このときすでに体重100kg近くありました。腹囲は152cm、身長が171cmですから、明らかに肥満です。体調も悪く、生命保険の契約も断られてしまいました。そこで、英国に渡り、いい医者を探していましたが、そのときにこの新聞記事を目にしたのです。そして、
「本当に空腹感が湧いたときだけ食べること」
「新鮮なものをシンプルに調理したものを食べること」
「ゆっくり味わいながらよく噛んで食べること」
を実践したのです。
その結果、少量の食事でも満腹感を覚え、5ヶ月で体重は71kg、腹囲は90cmまでに減少。健康なからだに戻すことができました。
そして、噛むという健康法の普及につとめるようになります。フレッチャーさんが60代のときに自分の両肩に若者を立たせている写真がありますが、筋力や持久力もつき、すこぶる健康体になったのです。
よく噛むと、早期に満腹感が得られ、食べすぎを防ぐことができます。その結果、体重を減らすことができます。


わたしの友人に、食事のたびにひとくち30回噛むことの大切さを話しました。彼は、30回噛むことを忠実に実行してくれ、3ヵ月で体重を4kg落とすことができました。食事を減らしたり、特別に運動をしたりしたわけではありません。ひとくち30回噛んだだけです。
友人は、テレビの映像カメラマン。年齢は65歳。身長165cmで体重は長年65kgで推移していました。それほどの肥満というわけではないのですが、テレビ局を退職し、いままで同じような生活をしていたのでは、からだを動かす機会が減るので、少し食べる量を減らそうかなと思っていました。
そこで、まず、ひとくち30回噛むことをはじめたのです。
わたしもテレビの業界を少し知っていますが、仕事中に食事時間をたっぷりとることはまれで、それこそかき込むように食べてしまいます。オンエアなどの締めきりもありますが、食べることに時間をかけません。お酒を飲むときは、別ですが、このときは飲んでいますので、油断をすると食べすぎになります。
テレビカメラは大変重く、それを肩に担いで撮影することもあり、カメラマンはテレビ業界の中ではいちばんからだを使うといっていいでしょう。しかし、退職し、生活が変わりました。何かしなければ、と思っていた矢先に、30回噛むことを知りました。
30回噛んでいると、自然と食事もゆっくり食べるようになりました。食事の量も減ってきたと奥さんがいっていました。3ヵ月で4kgやせ、ウエストは6cmも細くなりました。現在も体重は61kgで維持され、リバウンドは一切ありません。これがすごい。
肥満の研究をしている大分医科大学(現在大分医科大学大分大学と併合され、大分医科大学はありませんが)の坂田利家名誉教授にお目にかかったとき、30回という回数を守ることが重要だとお聞きしました。30回ぐらいというと、自分自身で加減してしまい、そのうち30回噛むことをやめてしまうからです。


よく噛むようになると、もうひとつすばらしいものが出てきます。それは唾液。
唾液そのものにいろいろな有益なものが含まれています。誰もがご存じなのは炭水化物の消化吸収に役立つアミラーゼという酵素が含まれていること。そのほかにも、リゾチーム、ラクトフェリン免疫グロブリンヒスタミンなど、殺菌、抗菌作用のある物質が含まれていますので、口の中で雑菌が繁殖するのをおさえてくれます。
気になる口臭は雑菌が原因になっていることもあり、唾液の量が多ければ、口臭も防げるのです。
最近の研究で、唾液に含まれているペルオキシターゼという酵素には活性酸素を除去する働きがあることがわかりました。
唾液は、噛めば噛むほど分泌されます。しかも、ゆっくり噛むといいようです。
唾液がたくさん出るようにするには、ひとくち30回は噛むことです。

わたしの著書『民間療法のウソとホント』『測るだけで大丈夫』(電子書籍で読むことができます)
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